- 著者
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神山 智美
- 出版者
- 富山大学経済学部
- 雑誌
- 富山大学紀要.富大経済論集 (ISSN:02863642)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.2, pp.279-324, 2016-12
財政活動における公的資金助成(いわゆる補助金のこと。本稿では公的部門による補助金等を扱うこととし,以下「補助金」と記す。)の運用には,その適法性において少なからずの論点がある。例として以下に挙げる原則に係ることが少なくない。財政民主主義の原則,公共目的(公益性)原則,有効性原則・比例原則,平等・公平原則,偶発債務抑制原則,公正決定原則等である。筆者が専門とする環境行政分野においても多くの補助金が運用されている。第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で策定された愛知目標の3には,「生物多様性に有害な補助金を含む奨励措置が廃止,又は改革され,正の奨励措置が策定・適用される(環境省仮訳)」が掲げられ,補助金の奨励効果に対する基本的な認識やルールの検討も求められている。本稿は,以上のような補助金の適法性全般またはその奨励効果の発揮に係る民主的統制のためのルールメイキング等を試論するものではない。本稿では,はじめに補助金返還の概要をつかみ(1),そのうえで補助金交付後に発生した諸事情による返還に関して生じてくる法的論点について,近年の補助金返還訴訟の分析からいくばくかの問題点の提示を試みる(2)(3)。なお,本稿が重きを置く視点としては,(1)の検討から,補助金が,①基本的には公的部門による助成であり適正な運用が求められることを踏まえ,そのうえで,②発展的には当該助成された事業等の支援,誘導および奨励等の効果を持つこととする。