- 著者
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与謝野 有紀
林 直保子
- 出版者
- 関西大学社会学部
- 雑誌
- 関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.2, pp.73-104, 2018-03-31
本稿では、絵画鑑賞のために美術館に行くという行為を大衆的な贅沢消費行為として位置づけ、美術鑑賞後の感想や一般的な美術鑑賞態度に関するデータから、美術鑑賞行為の類型の析出を試みた。ここで用いたものと同一のデータから、林・与謝野(2017)は、共分散構造分析をもちいて、美術館に行く人々がいくつかの類型に分けられる可能性を指摘しているが、その分析手法では類型を直接に識別することはできない。ここでは、クラスタ分析と潜在クラス分析という異なる分析視野をもった手法を並行で用い、計量社会学的にこの課題にアプローチした。クラスタ分析では、感想について2 つのクラスタが、態度については6つのクラスタが析出された。また、潜在クラス分析では、感想、態度ともに3つの潜在クラスが識別された。さらに、それぞれの類型に属する要因を、性別、年齢、美術館に行くきっかけ、他者に話す程度、メディアや権威への追従傾向を説明変数とするロジスティック回帰分析および回帰分析で検討した。これらの検討の結果、クラスタ分析と潜在クラス分析の両者で、「積極的評価型」と「消極的評価型」の二つの類型が共通に析出された。さらに、態度に関する潜在クラス分析の結果からも、感想と対応するような「能動的鑑賞型」と「受動的鑑賞型」の二つの類型が析出された。また、「積極的評価型」、「能動的鑑賞型」の類型の人々は、要因分析の結果、大衆的贅沢消費をしている人々と見做しうる特徴を示した。一方、「消極的評価型」、「受動的鑑賞型」の人々では、大衆的贅沢消費や誇示的消費概念だけでは理解することが難しく、その行為の背後にある意図の解明が今後の課題となっている。