著者
三尾 稔 Minoru Mio
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.603-662, 2002-03-29

この論文では,インド西部メーワール地方にあるスーフィー聖者のヒンドゥーの弟子たちを葬った2つの墓廟への信仰に関する民族誌的調査に基づき,同地方の生活宗教的な宗教実践の動態の把握を試みた。 コミュナリズムが政治的言説として支配的となりつつある南アジアにおいては,日常生活に根差した宗教実践もコミュナルな言説と無関係ではなくなり,宗教空間や信仰に関おる行為を特定の宗教イデオロギーと関連づけ,それらのアイデンティティーを純化しようとする動きが顕著になっている。 この論文が対象とする墓廟に眠る2人の宗教者は,高カーストのヒンドゥーでありつつ,スーフィズムの聖者を師とするという,コミュナルなアイデンティティーの分断線の狭間を生き抜いた。その墓廟はコミュナリズムが高揚する1980年代末から90年代にかけて造営されたが,その空間の構成やそこでの宗教的実践はスーフィズム的要素とヒンドゥー的要素が巧みに融合された形となっている。 論文では墓廟に眠る聖者やその弟子たちが,コミェナルな言説と交渉しながら,自分たちの宗教的実践をいかに維持してきたかを,墓廟の意味空間の分析や弟子たちとのインタビューによって把握する。その結果,ヒンドゥーとイスラームの境界にあって独自の宗教的実践を強固な意志で維持しつつコミュナリズムが要請する近代的主体への自己の回収をも回避するという,メーワール地方の聖者廟信仰の特質が明らかとなる。

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