- 著者
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西尾 哲夫
Tetsuo Nishio
- 出版者
- 国立民族学博物館
- 雑誌
- 国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.1, pp.1-39, 2009-10-30
エジプト・アラビア語(カイロ方言)はWh 疑問文の語順に関して古典アラビア語や現代標準アラビア語,さらに他の諸方言にはみられない特徴を持っている。エジプト・アラビア語以外のアラビア語では,Wh 疑問文の疑問詞は文頭の位置に移動するのが普通だが,エジプト・アラビア語においては,本来の平叙文の後部の位置にとどまるWh 疑問文が多用される。このような疑問文をコプト語の影響とみなす説が提唱されたが,いまだにその妥当性に関して結論は出ていない。本稿では,エジプト・アラビア語とコプト語の基本語順や話題化・焦点化などの一般的な語順をめぐる統語規則との関連で,各言語のWh 疑問詞に関して生起環境や統語規則をシステムとして比較し,コプト語影響説の是非を検討する。Wh 疑問文の語順変化におけるコプト語の影響は独占的なものではなく,エジプト・アラビア語の基本語順がVSO からSVO へ変化する中で,話題化や焦点化という統語規則の面で新たな統語構造が必要になってきた時に,コプト語の統語規則が当該の言語変化を促進させたことを明らかにし,エジプト・アラビア語に起った通時的な統語変化の仮説的段階を再構する。