- 著者
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菅原 祥
- 出版者
- 京都産業大学
- 雑誌
- 京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, pp.241-272, 2021-03-31
炭鉱はかつて,ポーランドにおいて最重要の産業として大きな重要性を有していた。ところが近年,ポーランドにおいては炭鉱や石炭がますますネガティブに表象されるようになりつつある。そのような中,本稿は,ポーランドの代表的な産炭地である上シロンスク地域に焦点を当て,そこにおいて社会主義時代から現在に至るまで炭鉱の経験がどのように可視化され,表象され,またいかなるまなざしを向けられてきたのかを,この地域に現存する有名な炭鉱住宅,ギショヴィエツとニキショヴィエツに着目して論じることで,そうしたローカルなコンテクストの中における炭鉱へのまなざしが,現在においてどのような意義や重要性を有しているのかについて検討する。分析の結果,ニキショヴィエツおよびギショヴィエツをめぐっては,単なる「工業施設」としての炭鉱というイメージ以外に,少なくとも以下の3 つの炭鉱をめぐるイメージが確認できた。①「自然」を破壊するものであると同時にそれ自身も「自然」とみなすことができるような,両義的かつ神秘的なトポスとしての「炭鉱」,②「文化遺産」「産業遺産」としての炭鉱,あるいは「小さな祖国」としての産炭地,③戦前から社会主義期,さらにはポスト社会主義の現在へと連綿と続く炭鉱夫の集合的経験・集合的記憶の領域を,支配的秩序に対する一種の「抵抗」の足がかりとして再発見することの可能性。このように,ポーランドにおいては「炭鉱」をめぐる上記のようなさまざまな記憶,経験,イメージ,言説が複雑に絡み合っている。本稿の分析の結果,そのような多様なイメージや記憶が交錯する場として「炭鉱」を再考することには大きな意義と可能性があるということが示唆された。