著者
高山 秀三
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.57-89, 2022-03-31

トーマス・マンは信仰の人ではなかったが,その作品にはキリスト教的なモチーフが多く取り扱われている。マンにとって,キリスト教はヨーロッパ文化の根底にあるものとして生涯をとおして大きな関心の対象だった。『ブッデンブローク家の人々』はプロテスタンティズムを精神的基盤とするドイツの市民社会を舞台とする小説であり,マンにとってはじめて本格的に宗教を取り扱うことになった作品である。この小説では,市民社会のなかでプロテスタンティズムが息づいている様相が,人々の具体的な生活を通して活写されている。舞台となっている時代は大きな社会変動の時代であり,プロテスタンティズム信仰の衰退期でもあった。『ブッデンブローク家の人々』は資本主義の進展や教養市民層の興隆などの社会変動に対応できないままに,信仰を失っていった伝統的な市民家族の四代にわたる没落の歴史である。本論はこの一族の没落と信仰喪失の過程に焦点をあてている。

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8. 『ブッデンブローク家の人々』とプロテスタンティズム (『京都産業大学論集. 人文科学系列』55巻(2022年)より) https://t.co/NvPuHRfCQL 敬虔というわけではなかったマンが描いたブッデンブローク家。 キリスト教信仰が弱まる19世紀頃という時代の中で衰退する彼らに注目して説明した論文です。

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