著者
平塚 徹
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.269-287, 2012-03

マイクに向かって話すことを表すフランス語の表現parler dans le microにおいて,前置詞句はマイクの内部を指しているだけである。英語などの幾つかの言語では,これに対応する表現において,前置詞句がマイクの内部への経路を明示的に表している(英語:to speak into the microphone,ドイツ語:ins Mikrophon sprechen,チェコ語:hovořit do mikrofonu,ロシア語: govorit’ v mikrofon)。しかし,フランス語では,マイクの内部が経路の着点であることは,推 論による解釈の結果なのである。 parler dans le microという表現においては,移動するもの,すなわち「声」が,明示的に表現されず,動詞parler(話す)によって含意されている。この潜在的な参与項はLangackerのアクティブ・ゾーンに対応している。前置詞句は,アクティブ・ゾーンの移動経路の着点に対応する場所を表しているのである。同じ説明は,souffler dans le micro(マイクに息を吹きかける),se moucher dans un mouchoir(ハンカチで鼻をかむ),vider une bouteille dans l’évier(びんの中身を流しにあける),mordre dans une pomme(リンゴをかじる)にも適用される。これら の表現において,アクティブ・ゾーンは,それぞれ,息,鼻腔内の粘液,瓶の中身,歯である。

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#寝る前に論文読む 平塚徹/フランス語の前置詞dansとアクティブ・ゾーン https://t.co/UPMWMg8nBU 英語のin(~の中)におおむね対応するフランス語のdansはinto(~の中へ)の感覚で使われることがある。ところが、dans自体にはintoのような経路の意味はない。この意味解釈は推論によって行われる。

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