著者
劉 暁苹
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.179-194, 2016-01-15

日本語では,未完結の形を通して表現することによって,様々な伝達の効果を目指すストラテジーの一つである未完結の発話が選好されている。本稿は,形式上は未完結でありながら,意味機能が完結しているような従属節のみで終わる発話を言いさし文と定義し,新たな構文としての言いさし文の形成過程と構文特徴を明確にする。 まず,先行研究に基づき,従属節のみで終わる発話の用語を整理した上で,言いさし文という表現の使用を規定し,その定義づけを行う。そして,構文形成の要因によって,言いさし文を「意味論的な省略による言いさし文」「語用論的な省略による言いさし文」「付加による言いさし文」の三種類に分けた上で,本稿の考察対象を「意味論的な省略による言いさし文」に限定する。 最後に,意味論的な省略による言いさし文は,表現の慣習化や文法化によって生まれたものが多いので,典型的な定型表現の例として,「なければならない/なくてはならない」の省略による「なきゃ/なくちゃ」言いさし文,「ないとならない/いけない/だめだ/困る」の省略による「ないと」言いさし文,「たら/ばどう」・「たらどうしよう」・「たら/ばよかった/いいのに」の省略による「たら/ば」言いさし文,「って言った/聞いた」の省略による「って」言いさし文を詳しく考察する。

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