著者
上村 正之
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-52, 2016-12-15

本稿の目的は,M.ザゴスキン『ユーリー・ミロスラフスキー,あるいは1612年のロシア人』(1829)におけるコサック・イメージを考察し,先行研究の中に位置付けることである。文学上のコサック表象を論じた先行研究では「神話」という概念を用いて,ゴーゴリの『タラス・ブーリバ』が持った影響力の強さを論じている。『タラス・ブーリバ』と違い,ウォルター・スコット風の歴史小説である『ユーリー・ミロスラフスキー』の場合,ロマンチックなコサック像と,歴史的知識に基づいたコサック像の2種類が現れる。前者がザポロージェ・コサックのキルシャであり,受動的な主人公ユーリーに対して,アグレッシブな行動力により彼を積極的に助ける。ユーリーとキルシャが合わさることで,一種の理想的なロシア人像が描かれるが,キルシャはコサックの中では例外的な存在であると説明されており,コサックそのものは讃美されるべき対象として描かれていない。一方でキルシャ以外の歴史記述に基づいたコサックは,利己主義を特徴としており,ロマンチックなコサックを相対化している。こうした要因により,この作品ではゴーゴリ的なコサックの「神話」性は力を持ちにくくなる。

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上村正之「動乱期におけるコサック・イメージ ――M.ザゴスキン『ユーリー・ミロスラフスキー,あるいは1612年のロシア人』を例に――」北海道大学文学研究科、研究論集 2016; 16: 33-52. https://t.co/ak3DzOVK88

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