- 著者
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翁 康健
- 出版者
- 北海道大学大学院文学院
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:24352799)
- 巻号頁・発行日
- vol.19, pp.293-311, 2019-12-20
在日華僑は,日本の「お盆」と似た「普度勝会」という中国民間信仰の宗教儀礼を行っている。普度勝会とは旧暦の7月15 日に行われる,祖先と無縁仏を祭る儀礼である。神戸普度勝会が最初に行われたのは1934 年のことである。それは,かつて神戸の老華僑が日本へと持ち込んだ民間信仰の文化であり,戦争などで中断を余儀なくされたこともあったが,様々な困難を乗り越えながら今日においても守り続けられている。1997 年には神戸市地域無形民族文化財に認定され,現在は福建省出身の老華僑─ 福建同郷会がその運営を担っている。他の地域の出身者たちは,当日の一般参加者として参加するという形で関わっている。
しかし,老華僑たちが年老いてきたこともあり,20 世紀の末から継承者不足の問題が浮き彫りとなり,普度勝会は存続の危機に直面している。その危機を解決したのは1970 年代以降に来日した同じく福建省出身の新華僑による普度勝会への参加と協力である。
それでは,今日の神戸普度勝会はどのように行われているのか。神戸普度勝会の開催内容については,1980,90 年代の調査に基づいた詳しい記録がある(曽,1987;2013)。しかし,すでに約30,40 年が経過していることを踏まえれば,改めて調査を行う価値があるだろう。また,曽の調査は主に普度勝会の儀礼内容そのものについてのものであったが,本稿では今日の儀礼内容を確認したうえで,主に人々がどのように普度勝会に参加し,その活動を行っているのかを確認していく。以上を踏まえたうえで,福建省出身の新華僑はいかに老華僑と接触し,神戸普度勝会の継承に協力しているのかを明らかにしたい。