著者
翁 康健
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.197-216, 2022-01-31

本稿は,民俗宗教研究と華僑華人研究の分野に位置付けられ,タイの社会的・宗教的文脈から,タイの華人宗教の動態を把握したうえで,脱共同体社会における民俗宗教のダイナミズムを見出すことをめざす。具体的には,民俗宗教はいかに社会の産業化・都市化に対応できるのかを考察する。そこで,本稿はタイにおける華人宗教の動態を取り上げる。タイにおいては,産業化・都市化への対応として,宗教実践に新しい現象が現れている。その中で,華人系以外のタイ人でも華人宗教施設を訪ねることが多くある。こういった華人宗教は,血縁,地縁に基づく華人社会を越え,タイの都市化・産業化社会に対応していると考えてよいだろう。では,そういった華人宗教は,タイの都市化・産業化に対してどのように対応しているのか。またどのような社会的意味を持っているのか。その問いに対して,本稿は華人系以外のタイ人も普遍的に実践している「ゲイ・ビーチョン」(厄払いの儀),「ギンゼイ(齋)」(ベジタリアン・フェスティバル)という2つの華人宗教の儀礼に焦点を当てた。その結果,都市化・産業化への対応として,ゲイ・ビーチョンは100バーツ(約350円)の冊子を購入することで,簡単に厄払いの儀を行うことが可能となっている。また,齋料理を食べて過ごすギンゼイは健康のためだけのものではなく,個人の修養として取り上げられる。このように,「ゲイ・ビーチョン」と「ギンゼイ」という華人宗教儀礼は,華人のエスニシティ,および血縁,地縁を越えて,消費パッケージ化および,禁欲的な修養によって,産業化・都市化社会における宗教儀礼実践の個人主義化に対応しているとみられる。そして,タイの華人宗教のような脱共同体的な民俗宗教は,共同体に依存していなく,かつ都市生活様式への個人実践に対応できることにより,ホスト社会に広く受け入れられることが可能となると考えられる。
著者
翁 康健
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.293-311, 2019-12-20

在日華僑は,日本の「お盆」と似た「普度勝会」という中国民間信仰の宗教儀礼を行っている。普度勝会とは旧暦の7月15 日に行われる,祖先と無縁仏を祭る儀礼である。神戸普度勝会が最初に行われたのは1934 年のことである。それは,かつて神戸の老華僑が日本へと持ち込んだ民間信仰の文化であり,戦争などで中断を余儀なくされたこともあったが,様々な困難を乗り越えながら今日においても守り続けられている。1997 年には神戸市地域無形民族文化財に認定され,現在は福建省出身の老華僑─ 福建同郷会がその運営を担っている。他の地域の出身者たちは,当日の一般参加者として参加するという形で関わっている。 しかし,老華僑たちが年老いてきたこともあり,20 世紀の末から継承者不足の問題が浮き彫りとなり,普度勝会は存続の危機に直面している。その危機を解決したのは1970 年代以降に来日した同じく福建省出身の新華僑による普度勝会への参加と協力である。 それでは,今日の神戸普度勝会はどのように行われているのか。神戸普度勝会の開催内容については,1980,90 年代の調査に基づいた詳しい記録がある(曽,1987;2013)。しかし,すでに約30,40 年が経過していることを踏まえれば,改めて調査を行う価値があるだろう。また,曽の調査は主に普度勝会の儀礼内容そのものについてのものであったが,本稿では今日の儀礼内容を確認したうえで,主に人々がどのように普度勝会に参加し,その活動を行っているのかを確認していく。以上を踏まえたうえで,福建省出身の新華僑はいかに老華僑と接触し,神戸普度勝会の継承に協力しているのかを明らかにしたい。
著者
翁 康健 清水 香基 伍 嘉誠
出版者
日中社会学会
雑誌
21世紀東アジア社会学 (ISSN:18830862)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.12, pp.76-93, 2023-03-01 (Released:2023-03-03)
参考文献数
17

大多数少数民族由于居住在相对落后的西部地区,所以少数民族的社会经济发展相对落后,与汉族存在差异。为了追求更高的收入,更好的生活,少数民族流动人口不断增加。 那么,通过社会移动是否可以消除少数民族和汉族之间的差异?基于上述问题意识,本文的研究目的为,通过使用CGSS2017 的数据进行探索性的分析,即社会移动是否改变了少数民族与汉族之间所存在的格差。分析结果为,通过社会移动,确实能改善在个人收入,家庭收入,本人学历,母亲学历,健康状态等方面,少数民族与汉族的差异。但另一方面,通过社会移动,使少数民族在人际关系以及社会公平感方面与汉族面临着相同困境。因此整体来说,通过社会移动少数民族的生存和发展未必得到了提升。主观幸福感的数据也显示,通过社会移动未使少数民族更加幸福。
著者
翁 康健
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.1-18, 2018

中国の宗族組織には分散と統合を繰り返すという特徴がある。「房」という構造に基づいて,宗族組織は分散し,また祖先崇拝により統合される。しかし,祖先崇拝は宗族を統合する以外に,宗族を拡張し,宗族の社会的地位を強める機能も有しており,その過程では宗族内部における経済的・政治的な地位の差も同時に強調される。そのため,それらの権力や勢力を持っていない族人はしばしば排除される。それでは,排除された族人はいかに宗族組織との関係を維持するのか,本稿は福建省陳厝村を事例にして,調査・考察を行った。その結果,祖先崇拝における排除問題は,神祇祭祀により緩和されることが示唆された。陳厝村の神祇祭祀においては宗族全体の神「聞太師」と,房レベルの神が共に村落を巡る「遊神賽会」という祭祀活動により,宗族全員が統合される。このように,宗族社会においては,「房」という構造に基づいて,祖先崇拝と神祇祭祀は宗族組織を統合する相補的機能を持つと考察された。現代中国社会において,海外華僑華人との社会関係資本の拡張のため,祖先崇拝と神祇祭祀は重要な二つの経路となっている。従って,改めて祖先崇拝と神祇祭祀の社会的機能を理解する必要ができている。その際に,こういった二つの祭祀儀礼の相互的機能を理解することで,民間信仰の社会的位置を捉える新しい視座を提供することができると考えられる。