- 著者
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北原 モコットゥナシ
- 出版者
- 北海道大学アイヌ・先住民研究センター
- 雑誌
- アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.7-34, 2021-03-01
本稿では、先住民研究において重要な知見を提供してきた歴史的トラウマ概念を取り上げ、アイヌ民族研究における有効性を考える。現代のアイヌ民族の文化状況は、近代のそれとは大きく変化し、偏見や差別を引き起こす文化的差は減少してきていると考えられる。その反面、民族性の違いに起因する疎外感やアウティング(属性の暴露)に対する恐怖といった状況はそれほど変化しておらず、それがアイヌのとしての自己肯定感を持ちにくい状況を生んでいる。歴史的トラウマと、スティグマの概念を導入することによって、こうした状況の説明が可能になる。 次に、トラウマを可視化することと、その解消が研究上・政策上の課題であることを述べる。従来のアイヌ政策では、こうした悲嘆・トラウマの存在やその治癒が意識されないか、軽視され、もっぱら文化振興に重心がおかれてきた。文化の喪失とトラウマは、連動してはいるけれども完全には重ならず、文化を回復すれば差別による問題も解消するわけではない。今後の政策においては、文化復興とは別にトラウマの解消に取り組むこと、その際、他の差別やハラスメントにおける加害防止プログラムなどを参照すべきことを提言する。