著者
坂口 諒
出版者
北海道大学大学院文学研究院北方研究教育センター
雑誌
北方人文研究 (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.123-134, 2021-03-25

本稿の目的は、『アイヌ語ロシア語辞典』(Dobrotvorskij 1875)の中のアイヌ語話者の居住地や経歴を明らかにすることである。アイヌ語話者に関するドブロトヴォルスキーの記述は断片的であり、大半の話者の居住地は明らかではない。同時代の史料と突き合わせることで、話者の居住地やその移動を明らかにできるだけでなく、アイヌ語資料としての辞書の可能性を高めることができる。ドブロトヴォルスキーと親しかったカシトゥルというアイヌ男性を例にすれば、同時代の他の史料から、1870 年代に至っても久春内の近くコミシラロポ(小茂白)で家族と暮らしていたことが確認できるが、カシトゥルの長女と長男は、1860 年頃のウショロ(鵜城)場所の人別帳に現れている。そのほか、他の資料と比較して辞典のアイヌ語が正確であることは、ロシア側、日本側の人名記録を修正する一助になると思われる。

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