著者
池澤 優
出版者
東京大学文学部宗教学研究室
雑誌
東京大学宗教学年報 (ISSN:2896400)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.13-29, 2007-03-31

本稿は,一般に生命倫理(学)と呼ばれている分野に対し,宗教学の側からどのようなアプローチが可能なのか,あるいは宗教学的な(宗教学らしい)生命倫理学というのは可能なのかを論じることを目的にする。現に宗教学の分野から生命倫理に対する言及が数多くなされている中で,改めてこのような設問をすること自体,奇異に感じられるであろう。実際,本稿は著者が生命倫理に対してどのようなスタンスを取るのかという極めて個人的な思索を綴ったものであり,根本的に論文と呼べるものではない。もう一つ断っておかなければならないのは,本稿の関心は"ものの考え方"に集中しているために,特に具体的な問題を扱わないということである。生命倫理上の特定の課題について何らかの主張を行うつもりはないし,明確な結論を出すつもりもない。これも奇異に感じられるかもしれないが,明確な主張や結論を出さない生命倫理へのかかわりが可能か,というのが本稿で追求したい試みである。分量上の問題から上下二篇に分け,上篇では各国における生命倫理の言説を類型化し,それを通して文化比較を行う可能性について論じる。下篇では,生命倫理が文化を反映するという現象がなぜ起き,それが何を意味するのかを論じたい。

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