著者
魚住 洋一
出版者
Japanese Association for the Contemporary and Applied Philosophy (JACAP)
雑誌
Contemporary and Applied Philosophy (ISSN:18834329)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.13-30, 2009-11-10

一九六〇年代後半から、英米においてセックスについての哲学的議論がはじまった。議論されたのは、売買春やレイプ、ポルノグラフィなどだが、それらを問題にするには、「性的」とは一体どういうことかが明らかにされねばならなかった。私はこの論文で、性的行為や性的欲望を巡る初期の議論、とりわけ、ネーゲルやソロモンが行なった「現象学的記述」とゴールドマンやソーブルが行なった「概念分析」の双方の議論を辿りながら、それらの有効性と限界性を見極めようとした。ネーゲルは、サルトルを手掛かりに、二人が互いに相手の興奮を感じて自分もさらに興奮を昂ぶらせていくという「相互人格的認知」を性的行為の規範的なありかたと考え、そうした相互性を欠いた行為を性的倒錯と見做そうとした。しかし、特定の性的行為のありかたの現象学的記述から性的行為の「規範」を短絡的に導き出してしまうところに、彼の問題点があったと思われる。性的行為を感情を伝達する一種のボディ・ランゲージと見做すコミュニケーション・モデルを提唱したソロモンも、彼の立場を受け継ぐ哲学者だが、彼の主張にも、感情を伝達する手段は他にもあるではないかといった多くの問題点がある。ところで、ゴールドマンは、性的欲望を他者との身体接触の快楽を求める欲望と定義する。彼がこうした定義を行なったのは、生殖、愛の表現、コミュニケーション、相互人格的認知などの目的を設定し、セックスをそれらの目的のための手段とする考えを批判するためである。他方ソーブルは、ゴールドマンの定義では、他者との身体接触を求めないマスターベーションが性的行為ではなくなってしまうと指摘し、性的欲望とは一定の快感を求める欲望であると一層単純化して定義するが、今度は性的と見做しうる感覚を特定することが困難になる。彼はそのことを認めつつ、哲学はそれを解明できずその問題を経験的諸学科に委ねなければならないと語る。しかも彼によれば、諸個人が性的な快感をどのように求めるようになるかは、彼/彼女の社会的条件によって異なるのである。これらのことから考えると、現象学的記述も概念分析もともに問題点を含み、性的欲望とは何かとの問いに答えることができるのは、結局は、社会構築主義ではないかというのが私の結論である。

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哲学から入るとやっぱり概念的な話になっちゃうんだよなぁ https://t.co/ODcexQDHOM 統計まとめたのだとこんな感じか… https://t.co/vMBJ0kNMk8 自由記述欄が載ってる山形大の論文どこ行っちゃったかな…
“Kyoto University Research Information Repository: <研究論文(原著論文)> 性的欲望とは何か?──現象学と概念分析” https://t.co/TwFSnPOAKF
Kyoto University Research Information Repository: <研究論文(原著論文)> 性的欲望とは何か?──現象学と概念分析 http://t.co/AXHsDziHCV
魚住洋一「性的欲望とは何か?--現象学と概念分析」をざっと読む。考えたことのなかった問いだけど、なるほど、面白い。ぐるぐる考える。 http://t.co/gevElpGeB0
Kyoto University Research Information Repository: <研究論文(原著論文)> 性的欲望とは何か?──現象学と概念分析 http://t.co/0fe4gbQk
魚住洋一「性的欲望とは何か?」 http://t.co/MXBMTxl

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