著者
池野 絢子
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科
雑誌
人間・環境学 = Human and Environmental Studies (ISSN:09182829)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.47-58, 2010-12-20

本論は, 戦後イタリアの芸術家ジュリオ・パオリーニ(1940生)の初期作品の考察を通じて, 芸 術作品における「作者」のありょうを一考するものである. パオリーニは, 1960年代のはじめに, イメージを排除する反イリュージョニズムの作風で出発するのだが, 67年以降, 彼の作品には写 真複製された過去の巨匠たちの絵画が登場し始める. このような写真複製の利用は, とはいえ, 単純に過去の作品の「引用」として片付けることはできない. というのも, その制作において問題化されているのは, 既存のイメージを新たなイメージの一部として制作に応用することではなく, むしろあるイメージを複数の作者たちに結び、つけることだと考えられるからだ. ロラン・バルトの名高い「作者の死」(1968) と相前後して発表されたパオリーニの作品にあって, しかしながら「作者」は, 完全に葬り去られたとも, 単純に回帰したとも言いがたいように思われる. 本論では, パオリーニの制作の展開を追いながら, 芸術作品における「作者」の所在を再考する端緒を探りたい.

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