- 著者
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大島 千佳
西本 一志
阿部 明典
- 雑誌
- 情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.5, pp.1546-1557, 2006-05-15
以前より演奏表現に関しての研究が行われ,最近ではコンピュータに自動的に人間らしい演奏をさせる研究が行われている.これらの研究では,主に各音の音量や音長をもとに演奏表現を議論してきた.しかし,音楽演奏では「音の切れ方」も表現の一要素として重要である.ピアノ演奏の場合,音の切れ方は「離鍵速度(下におりた鍵盤が元の位置に戻る速さ)」によって表現され,Musical Instrument Digital Interface(MIDI)では,“Note off velocity” として数値的に示される.したがって本論文では,音楽情報科学分野における演奏分析や演奏生成の研究に利用可能な,知識表現を求めるための基礎的な段階として,ピアノの演奏表現における離鍵速度の重要性を示した.まず,音響スペクトログラムと聴取による評価実験により,離鍵速度の変化が演奏表現に影響を与えることが分かった.次に,演奏データを分析したところ,ところどころで際立って離鍵速度が遅い箇所があり,これらの箇所は楽譜上の情報と関係していることが示唆された.さらに度数分布を求めて打鍵速度の特性と比較することで,離鍵速度に示される奏者の知識表現を求めるには,離鍵速度が際立って遅い箇所や速い箇所に注目する必要があることが示された.