著者
常光 徹
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.108, pp.255-270, 2003-10-31

本稿は、ある対象に向けて意識的に息を吹くしぐさと、何らかの意図のもとに息を吸うしぐさについて論じたものである。しぐさの伝承に関する資料にはまとまったものが無く、部分的な事例が各種の報告書に混在しているケースが多い。これまでの研究においでも、特定のテーマ以外には話題になる機会が少なかった。本稿では「吹く」と「吸う」にまつわる資料を分類し、その呪術的な内容を明らかにする。第一章では、息を「吹く」しぐさを取り上げる。火傷や怪我、あるいは毒虫に刺されたときなどに、呪い歌を唱えて負傷した箇所をフーフーと吹くしぐさは広く行われてきた。呪い歌の力で痛みを取り去り治癒の効果を期待するものだが、その際、息を吹きかけるのは、邪悪なモノや不浄なものを祓い浄化するためだといってよい。また、息を吹いて妖怪を追い払う場合もあるが、反対に、妖怪から人が吹かれるのは危険な状態だと考えられている。民間説話の怪談のなかには、妖怪が息を吹きかけて人を殺すモティーフが成立している。口をすぼめて息を強く吹いたり口笛を吹くことをウソブキという。ウソブキをすると、風が起きるとか、蜂が逃げていくという俗信についても考察する。第二章では、息を「吸う」しぐさを取り上げる。チュウチュウと音をたてて息を吸うしぐさをねず鳴きといい、漁師が魚を釣るときや海女が海に潜る際に行う。これは豊かな海の幸を期待する呪術的な行為である。かつては、遊女が客を呼び込もうとするときにもねず鳴きを行ったことはよく知られている。また、動物を呼ぶときにもこのしぐさがみられる。吹くしぐさに、邪悪なモノを払いのけ遠ざけるはたらきが強調されるのに対して、吸うしぐさには、外部のものを招き寄せるはたらきが認められる。この違いは「吹く」と「吸う」という息遣いのあり方と重なっており、「吹く」か「吸う」かの違いは、それぞれの伝承群の意味や機能の方向性を基本的に規定している。

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