- 著者
-
渡辺 滋
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.190, pp.29-55, 2015-01-30
古代社会で発生した揚名官職(肩書だけで権限・給与が与えられない官職)をめぐっては、有職学(儀式・官職などに関する先例研究)の一環として、また『源氏物語』に見える「揚名介」の実態をめぐって、前近代社会のなかで長期に渡り様々な人々による検討がなされてきた。ところが先行研究では、一部の上級貴族をめぐる個別的・断片的な事例を除き、その展開過程について十分な分析がなされないまま放置されている。そこで本稿では、関連資料が豊富に現存する広橋家の事例を中心として、中世貴族社会における関連研究の展開を解明した。具体的に取り上げたのは、おもに広橋兼秀(一五〇六~一五六七)による諸研究である。国立歴史民俗博物館に所蔵される広橋家旧蔵本から、兼秀によって作成された関連資料を検出・分析することで、従来未解明だった広橋家における情報蓄積や研究展開の諸過程を解明した。その結果、彼の集積した諸情報は家伝のものだけでなく、周辺の諸家からもたらされたものも少なくないことが判明した。そこで中世の広橋家における有職研究の過程で蓄積された情報や、それに基づく研究成果を相対化するため、同家の周辺に位置する一条家・三条西家などにおける研究の展開も検討した。このように中世貴族社会における関連研究の展開過程も分析した結果、諸家における研究が相互に有機的関連を持っていたことや、とくに広橋兼秀の場合、一条家における研究成果から大きな影響を受けていた実態が判明した。以上のような展開のすえ、最終的に近世の後水尾上皇などへと発展的に継承される解釈が、基本的には中世社会のこうした営みのなかで形成されたことが確認された。