- 著者
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小池 淳一
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.197, pp.145-158, 2016-02-29
本稿は筆記環境の近代化と消費文化の様相を万年筆を通して考えようとするものである。ここではまず,明治の日本において万年筆が販売に際してどのような位置づけであったか,について,丸善における広告宣伝を確認し,特に夏目漱石が書いた「余と万年筆」(1912)をはじめとする万年筆関係の文章を分析した。さらに三越百貨店における万年筆の販売の様相を『三越』『三越タイムス』からうかがい,その特徴について考察した。その結果として,万年筆は筆記の近代化のシンボルとして,明治末から大正の初めにはかなり普及したが,特に三越では舶来品としての万年筆の販売に尽力し,さらに関連する商品も視野にいれ,商品そのものばかりではなく,関連する知識や使用法の啓蒙にも努めていたことが明らかになった。日本における万年筆の歴史,筆記文化の近代を考えるためには,ここで論じた以外にも国産化の過程をはじめとする複眼的な考究が必要であろう。