著者
俵木 悟
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.205, pp.435-458, 2017-03-31

柳田國男は一九三〇年代から、特定の時代・地域の人びとにおける「良い/悪い」や「好き/嫌い」といった感性的な価値判断を「趣味」という言葉でとらえ、心意現象の一部として民俗資料に含めることを提唱していた。これを展開した千葉徳爾は、芸術・娯楽に関わる民俗資料に「審美の基準」を位置づけた。本稿は、従来の民俗学が十分に論じてこなかったこの「趣味」や「審美の基準」を、民俗芸能の具体的事例にもとづいて論じる試みである。鹿児島県いちき串木野市大里の七夕踊りは、ナラシと呼ばれる一週間の稽古の過程において、各集落から選ばれた青年による太鼓踊りの評価が行われる。その評価が地域の人びとの関心を集め、多様な「良い踊り」に関する多様な言語表現や、流派に関する知識、技法の細部へのこだわり、踊りの特徴を継承する筋の意識などを生み出し伝えている。それらを手がかりとして、この踊りに関わる人びとにとって「良い踊り」という評価がどのように構成されているのかについて考察した。大里七夕踊りの場合、その評価の際だった特徴は、「成長を評価する」ということである。単に知覚的(視覚的・聴覚的)に受けとられる特徴だけでなく、踊り手がどれだけ十分に各人の個性を踊りで表現し得たかが評価の観点として重視されていた。これは近代美学における審美性の理解からは外れるかもしれないが、民俗芸能として生活に即した環境で演じられる踊りの評価に、文化に内在する様々な価値が混然として含まれるのは自然なことであろう。大里七夕踊りの場合、そのような価値を形成してきた背景には、近代以降に人格の陶冶の機関として地域の生活に根付いてきた青年団(二才)によって踊りが担われてきたという歴史が強く作用していると考えられる。

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俵木 悟 2017 民俗資料としての「審美の基準」へのアプローチ : 鹿児島県いちき串木野市、大里七夕踊りの事例から (民俗儀礼の変容に関する資料論的研究). 国立歴史民俗博物館研究報告, 205, 435-458. 今年で最後といわれてましたが実施されるのかなあ…。https://t.co/u7NdyKkWf4 #祭心理学文献

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