- 著者
-
伊藤 高史
Takashi Ito
- 出版者
- 同志社大学社会学会
- 雑誌
- 評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
- 巻号頁・発行日
- no.140, pp.1-21, 2022-03-31
本稿では,メディア論としての社会システム論という観点から,スター歌手として大衆的認知を獲得した森高千里が,「人形」や「アンドロイド」などといった非人間的な存在感を示す言葉で表現されたことの社会的意味を考察する。このことを通じて,大衆文化が持つ創造性とそれを生み出すメカニズムを明らかにすることが本稿の目的である。森高はメディアを通じて表象された「複製」こそが消費システムにとっては「オリジナル」として体験され,実際の森高は「複製の再認」であるという倒錯した状況を観察し,そのことを表現するパフォーマンスを行った。「人形」や「アンドロイド」といった表現が示唆するのはメディア的表象の中にあっても森高は独特の質感を持った存在として,「メディア的身体性」と呼び得るものを獲得していたことである。消費システムは文化産業システムと創作システムの作動の中に,消費システムがいかにして観察されているのかを観察し,そのことによって森高のパフォーマンスに「リアルなもの」としての意味を見出した。森高がメディア的身体性を獲得したことの分析を通じて,大衆文化における創造性は,様々な社会システムが複合的,重層的に連鎖し,相互に観察し合うことを通じて生み出されていることが明らかになる。