著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.139, pp.23-42, 2021-12-31

本稿では,筆者がこれまでに考察してきたメディア文化に関する社会システム論的分析枠組みを利用して,クラシック音楽界では異例の注目を集めた佐村河内守の「ゴーストライター騒動」(2014年)を分析し,今日のメディア文化の在り方とそこにおける創造性産出のメカニズムの一端を明らかにした。クラシック音楽は歴史的に市民を感動させる音楽へと発展してきた。そのような歴史から考えれば,身体的障害や被爆二世といった記号的価値を付与して作品の価値を高めようとした佐村河内のやり方は自然なものであった。消費システムを観察し,消費システムを作動させようとする文化産業システムは,過去の作品との微細な差異を生み出しながら新しい商品を創作システムとともに生み出していく。創作システム,文化産業システム,消費システムが複合的に交差する中で佐村河内という「作曲家」が生み出され,彼は,現代日本の消費システムを作動させる調性音楽を生み出すプロデューサーとしての役割を果たした。文化産業システムを中心にした複数の社会システムが複合的に重なり合う中で,これまでになかった「21世紀の調性音楽」が生み出されたのである。
著者
大倉 高志 Takashi Okura
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.99, pp.97-135, 2012-03-15

本稿の目的は,警察,死体検案医,解剖担当者による自死遺族支援の可能性を検討することである.検討の結果,警察が自殺を装った殺人を疑うことが自死遺族を大きく傷つけていること,検案費用や解剖費用,検案書発行手数料の請求に明確な規定がないこと,検案医や解剖担当者が実施内容や結果について遺族への説明責任を果たしていないことなどが自死遺族の死別後の苦しみをさらに増大させている恐れがあることが分かった.警察は犯罪被害者支援の経験を活かし現場での支援実施責任者として自死遺族に特化した明確な支援を提供できること,検案医と解剖担当者は機転を利かせ積極的に警察と相談の上,遺族に結果を紳士的に説明し自死遺族に特化した支援を提供するなど,欠くことのできない重要な役回りを果たすことができることを指摘した.
著者
孫 希叔 ソン ヒスク Son Heesook
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.126, pp.51-72, 2018-09-30

論文(Article)困難に直面した新人ソーシャルワーカーは,他者の有する経験から導き出した判断や対処を,自分が直面している状況に意図的に関連づけ,実践の中での振り返りを行っていた。その過程は,新人ソーシャルワーカーの内面的変化に至る過程であり,それによって意識的に生成された知は,新たな状況に対する自己の行動様式として再構築され,より洗練された実践へと移行していることが示唆された。Novice Social Workers with neither enough empirical knowledge nor skills were puzzled by "the deviation from the image originally held" and were unable to stand the "imposition of different values," and they thus felt frustrated with the "lack of good experience." They were trying to resolve the anxiety arising from their immaturity and weak minds by "compromising with the thoughts of different perspectives." and "relying on others." However, if they encountered difficult circumstances again without having the opportunity to compensate for the "lack of experience sharing" or the "lack of the ability to reflect" due to the "absence of someone to consult or who can be a support," they became exhausted mentally and physically, thus causing a vicious circle of "negative self-evaluation."
著者
口村 淳 クチムラ アツシ Kuchimura Atsushi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.126, pp.1-13, 2018-09-30

論文(Article)本研究の目的は,他職種からみた生活相談員に対するイメージや期待する役割を把握した上で,生活相談員業務のあり方について検討することである。社会福祉法人A系列の特別養護老人ホームを調査対象にし,生活相談員以外の専門職から102通の回答を得た。分析の結果,生活相談員は他職種から,相談援助や連絡調整を中心とした役割を期待されている傾向があることが明らかになった。This study aims to examine residential social worker's expected roles from the other professionals viewpoints and to consider the direction of residential social work. The target of the questionnaire survey was a social welfare corporation affiliated special nursing home for the elderly, and 102 professions other than residential social worker responded. As a result of analysis, the following trend was revealed that residential social worker was expecting the role of consultation aid and coordination mainly from other professions.
著者
内山 智尋 Chihiro Uchiyama
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.133, pp.137-159, 2020-05-31

超少子高齢化社会である日本では今,「地域」の果たす役割に期待が高まっている。幾度にもわたる介護保険の改正や「ニッポン一億総活躍プラン」,「地域共生社会」,「我が事・丸ごと」など国から出される方針はどれも地域住民の積極的な地域活動への参画を期待したものである。一方で地域では社会的孤立の問題などが深刻化し,地域における互助的機能も弱体化しており,理想と現実のギャップは大きい。本稿の目的は,地域共生社会の推進が難しいのは,国の政策や制度と住民が抱える課題の乖離にあることを指摘し,その解決策を事例分析や理論研究から導き出すことである。住民参加の意味を改めて問い直し,そこで果たすコミュニティソーシャルワーク(以下CSW)の効果的な取り組み方法について,ソーシャルクオリティの包括的視点やエンパワーメントの考え方,また筆者自身のコミュニティサポーターとしての経験から横断組織的な制度や活動の重要性を強調している。住民の参加と社会の発展は車の両輪のような関係であり,互いの相互作用により地域コミュニティが成熟化し,このような関係性の先に地域共生社会があることを提示している。論文(Article)
著者
小畑 美穂 Miho Obata
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.136, pp.45-85, 2021-03-31

本論文は,医療ソーシャルワーク業務が,時代や政策といった社会の影響から受け身的傾向が強まり,社会へ働きかける視点が希薄化される経緯を整理し,要因との関係性を明らかにした。貧困や傷病で困窮する患者の受診・入院支援を中心に家族も含め地域社会を視野に業務を担っていた萌芽期を経て,戦後GHQ 撤退後の保健所医療社会事業後退によって地域社会への視点が希薄化した。同時に援助論の偏重傾向が強まった。創設された職能団体は,質向上と業務明確化を求めるも当初の目的から逸れ資格化運動に傾倒した。政策は少子高齢社会による財源支出抑制に対応するため基礎構造改革,早期退院,地域移行を推進した。医療ソーシャルワーク業務は,政策,組織に後進することで内向きとなり,個別に現れている生活問題を社会の問題とする視点は薄められた。論文(Article)
著者
郭 芳 カク ホウ Kaku Hou
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.130, pp.23-43, 2019-09-30

論文(Article)高齢者のニーズが変化していくなかで,高齢者に対するサービス供給システムの諸要素およびその構造も変化していく。本稿の目的は,時代の変化に伴う高齢者ニーズの変貌のなかでの高齢者福祉サービス供給の発展経路を考察することを通して,その特徴を明らかにすることである。具体的には,サービス提供の責任主体,供給主体,サービス提供に直接関わる諸要素(提供内容や提供方式,費用負担),利用者の4 つの視点から検討を行った。そして,地域包括ケアシステムの構築が課題となっている今日において,新たな局面を迎えている高齢者福祉サービス供給システムが直面する課題を提示した。それは,基盤を失っていった家族と地域を提供主体として再活用するには,その具体的な支援策を同時に打ち出さなければならないことである。
著者
森 類臣 Tomoomi Mori
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.89, pp.31-87, 2009-10-10

本研究は、2003年に盧武鉉元大統領が行った「記者クラブ」解体のプロセスに焦点を当てている。記者クラブは、日本による朝鮮半島植民地支配の遺物として、日本だけでなく韓国にも戦後継続して存在していた。官庁や大企業などの主要情報源におかれていた記者クラブを、韓国の歴代政権は情報統制に利用し、また、記者クラブ自体が排他的・閉鎖的・差別的構造を持っていたことは、日韓とも同じであった。2003年の記者クラブ解体前には、『ハンギョレ新聞』『オーマイニュース』などによる対記者クラブ闘争があった。
著者
岩月 真也 Shinya Iwatsuki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.103, pp.89-113, 2012-11-30

本稿では,政治闘争であったと言われる勤評闘争下における現場教師たちの抵抗の源泉は何であったのかを,勤評闘争の発端である愛媛県下の現場教師たちの手記を中心的な資料として検討している。現場教師たちの手記を整理した結果,現場教師たちにとっての勤評闘争とは,現場教師たちから「差別昇給」と捉えられていた評価差による昇給差を職場に持ち込むことを否とする思想が闘争の源泉となり,「差別昇給」排除の闘争であったことが明らかとなった。
著者
黒田 由衣 Yui Kuroda
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.143-163, 2021-09-30

本研究の目的は,日本的自己観から要介護高齢者の主体性を把握することにより,入所施設の入居者における主体性発揮への支援についての示唆を得ることである。社会福祉分野における主体性は,他者に依存することなく,個人の意思や選択に基づいた判断や決定,行動等,個のありようが重視されていた。一方,日本的自己観に基づいて主体性を把握した場合,日本人の主体性は,他者との関係や,周囲の状況により導かれるものであった。ゆえに,他者からの支援に頼らなければ生活することが困難な入所施設の要介護高齢者の主体性発揮への支援においては,その生活の場における他者との関係や周囲の状況を視野に入れた支援が重要であることが示唆された。論文(Article)
著者
遅 力榕 Lirong Chi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.136, pp.29-43, 2021-03-31

本稿では,コロナ禍において新設された地域交流スペース「カフェあずま」に対する参与観察およびインタビュー調査を通して,つながりの再生ができた経緯を明らかにし,ウィズコロナの中で地域活動を継続することに対する示唆を得て,「新しいつながり事業」への提言を行うことを目的としている。調査結果の分析を通して,「カフェあずま」は専門職と拠点の交差によって実現された感染予防に配慮した居場所であることが明らかになった。そして,ホームヘルパーを「新しいつながり事業(つながり推進員)」の人材として生かす可能性,地域福祉活動および場の再開の必要性への検討に至った。コロナの終息が見えない中,つながり再生の道を開く必要性を痛感している。論文(Article)
著者
鈴木 良 Ryo Suzuki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.142, pp.1-20, 2022-09-30

本稿では,障害者権利条約の第19 条,一般的意見第5 号,脱施設化ガイドラインのアウトライン及びドラフト,各国の初回審査の分析を通して,障害者権利条約における1)脱施設化概念,2)脱施設化政策の内容,3)政策運用面の課題を明らかにした。この結果,1)脱施設化は非集合的生活様式を含めて自律性や地域社会への包摂を目指す概念であり,2)脱施設化政策には障害者差別の観点・当事者団体の参画・脱施設化計画の策定・第三者機関の関与・交差的アプローチ・意思決定支援の仕組み・本人/家族支援・パーソナルアシスタンスの選択肢の確立等があり,3)集合的生活様式の定義及び施設生活の継続という選択をめぐる課題等があることが明らかになった。
著者
孫 琳 Lin Sun
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.105-122, 2021-09-30

社会福祉という領域は,公共性と切り離せないものとして語られるが,公共性概念の内実については具体的に分析されることのないまま,今日に至っていると指摘されている。その一方で,社会福祉の歴史をみると,社会福祉における「公共性」概念は福祉サービス供給システムの変化によって変わりつつあると考えられる。本研究は福祉サービス供給システムに関わる3 つの主体(「政策主体」「実践主体」「クライエント」)に着目し,「公・公共・私の三元論」をキーワードに,公共性概念の変遷を明らかにした。すなわち,社会福祉における公共性は,戦後直後の国家に関係する公的な(official)ものという意味から,供給主体の多様化によって,共通の(common)ものという意味へ転換し,また,利用者が協働主体として重要視されるようになってから,公共性は誰に対しても開かれている(open)という意味も含まれていると考える。論文(Article)
著者
羽鳥 恵一 Keiichi Hatori
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.133, pp.173-195, 2020-05-31

精神科ソーシャルワーク実践の現場では,クライエントの抱えるスピリチュアリティへの配慮が求められる。本稿では,先行研究を紐解き,スピリチュアリティを取り巻く全体的状況を把握し,社会福祉学の歴史的変遷を概観することで,ソーシャルワーク実践がスピリチュアリティに基礎付けられていることを明らかにした。特に精神科ソーシャルワーク実践では,筆者が実際に関わった事例のように,特有な仕方での配慮が必要である。その際,ソーシャルワーカーには,自らの弱さや感受性の自覚が求められる。それによって,クライエントも私も同じ自他不二の存在であると気づくとともに,スピリチュアリティに配慮した実践が可能となるのである。論文(Article)
著者
木原 活信 Katsunobu Kihara
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.1-19, 2021-09-30

本論文では,ジョージ・ミュラーの孤児院開設の草創期(1835-1842)に焦点をあて,特に開設直後のミュラーの精神的不調と孤児院の財政的危機について論じた。これまでのミュラーの伝記では,2000人規模の孤児院経営という「奇跡」的事業や諸困難を「祈りによって解決」したといったエピソードを軸に紹介されてきた。しかし本論では,それにはハイライトをかけず,これまでの伝記では触れられてこなかったミュラーの内面的葛藤と経営的問題に焦点をあてた。特に半年間にわたって精神的不調により休業せざるを得なかった経緯,そして逼迫した財政状況を分析した。神のみに頼る「実験」のため,その趣旨を理解した者以外からの献金を受けない,借金をしない,集金目当ての広告をしないといった方針により結果的に過酷なまでの財政危機となった。しかし逆説的にその危機的財政基盤ゆえに,世界のキリスト者たちが多額の献金で支えた。そしてまたミュラーは,「頭の病気」という精神・神経症状と格闘したが,逆にその「脆さ」と「弱さ」ゆえに,愚直なまでに神に頼り続けた点にこそ,「奇跡の人」「偉人」ではないミュラーを理解する本質と鍵がある。This paper focuses on George Müller's early days with the Bristol orphanage (1835-1842) and discusses Müller's mental crisis shortly after its opening and subsequent financial crisis. Biographies written about Müller thus far have centred on the episode showing his 'miracle' works and indicating that the difficulties of managing the orphanage with 2,000 orphans were 'solved by prayer'. However, in this paper, I focused on Müller's internal conflicts and management issues, which have not been touched upon in previous biographies. I analysed the circumstances in which he had to take a leave of absence due to mental problems for six months as well as the tight financial situation. Müller's policy was to 'experiment' with the faith that relies solely on God, so he would not receive donations from anyone other than those who understood his purpose, would not borrow any money from anyone, and would not advertise for collection. A severe financial crisis occurred due to his adherence to this policy. However, paradoxically, because of the orphanage's poor financial base, it was possible to collect large contributions from many Christian volunteers around the world. He also continued to rely on God while struggling with the 'weakness' of mental and neurological symptoms of a 'head illness'. His way of life, as somebody who was 'not a miracle person', is probably the most important point in understanding him.論文(Article)