著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.139, pp.23-42, 2021-12-31

本稿では,筆者がこれまでに考察してきたメディア文化に関する社会システム論的分析枠組みを利用して,クラシック音楽界では異例の注目を集めた佐村河内守の「ゴーストライター騒動」(2014年)を分析し,今日のメディア文化の在り方とそこにおける創造性産出のメカニズムの一端を明らかにした。クラシック音楽は歴史的に市民を感動させる音楽へと発展してきた。そのような歴史から考えれば,身体的障害や被爆二世といった記号的価値を付与して作品の価値を高めようとした佐村河内のやり方は自然なものであった。消費システムを観察し,消費システムを作動させようとする文化産業システムは,過去の作品との微細な差異を生み出しながら新しい商品を創作システムとともに生み出していく。創作システム,文化産業システム,消費システムが複合的に交差する中で佐村河内という「作曲家」が生み出され,彼は,現代日本の消費システムを作動させる調性音楽を生み出すプロデューサーとしての役割を果たした。文化産業システムを中心にした複数の社会システムが複合的に重なり合う中で,これまでになかった「21世紀の調性音楽」が生み出されたのである。
著者
板垣 竜太
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.149-185, 2013-05

本資料は,朝鮮学校への嫌がらせ事件について京都地裁でおこなわれている裁判のために書いた意見書を全文活字化したものである。前半は,朝鮮学校の現状に関する説明である。日本および朝鮮民主主義人民共和国のカリキュラムとの比較,教科書の歴史的な変遷,朝鮮学校の組織体系などについて論じた。後半では,まず日本における民族教育史をたどりながら,民族教育権という概念が弾圧と抵抗の歴史のなかで編み出されてきたことを論じた。次に,保護者が子どもの言語習得や自尊心の確立を願って朝鮮学校を選択していること,受け身ではなく自分たちの学校と認識しながら子どもを送っていることも述べた。その上で,本件が,歴史的にも他国との比較においても典型的なレイシズム事件に他ならないことを論証した。
著者
西丸 良一
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.141-155, 2014-11

本稿は,X大学Y学部を対象に,入試選抜方法と学業成績・能力向上感の関連を検討した.分析の結果,基本的に各選抜方法のなかで,「一般・センター」で入学した学生のGPAにくらべ,「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編入」で入学した学生のGPAが低いということはなかった.また,選抜方法によって能力向上感に大きな差もみられないようだ.ただし,GPAと能力向上感にほぼ関連がない.大学教育において,学生の勉学に対する評価がGPAなら,能力向上感と正の関連を示す方が望ましい.なぜGPAと能力向上感が関連しないのかに関しては,今後の大きな検討課題といえよう.
著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.138, pp.21-40, 2021-09

本稿は,筆者が別稿で検討した,メディア文化についての社会システム論的分析枠組みを実証研究に応用するものである。そのことによって,大衆文化としてのメディア文化において創造性が発揮されるメカニズムを社会システムの観点から明らかにするとともに,筆者が提示した分析枠組みの有効性を検証する。分析対象とするのは,今日に至るまで活躍するスター歌手森高千里であり,彼女が1980年代後半にデビューし,スターとしての大衆的認知を得る1990年代はじめまでの時期に焦点を当てる。彼女は文化産業システムによって敷かれた路線を従順に歩むアイドルとしてデビューさせられたが,スタッフの協力を得て独自の世界を切り開いていった。彼女の振る舞いを「キワモノ」「アイドルのパロディ」として解釈する「解釈共同体」が成立し,彼女に唯一無二の地位を与えていった。彼女がスターとしての大衆的認知を得る過程が示しているのは,社会システム論が示唆する通り,様々な社会システムが交差し相互作用する中での葛藤や協働が,資本主義社会のメディア文化に創造性をもたらしていることである。論文(Article)
著者
森 類臣
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.31-87, 2009-10

本研究は、2003年に盧武鉉元大統領が行った「記者クラブ」解体のプロセスに焦点を当てている。記者クラブは、日本による朝鮮半島植民地支配の遺物として、日本だけでなく韓国にも戦後継続して存在していた。官庁や大企業などの主要情報源におかれていた記者クラブを、韓国の歴代政権は情報統制に利用し、また、記者クラブ自体が排他的・閉鎖的・差別的構造を持っていたことは、日韓とも同じであった。2003年の記者クラブ解体前には、『ハンギョレ新聞』『オーマイニュース』などによる対記者クラブ闘争があった。Kisha clubs existed in only Japan and the Republic of Korea, which had been colonized by Japan for 40 years. This paper is focusing on process of dismantling of "Kisha Clubs" by the former Korean president Roh at 2003 in the Republic of Korea. The "Hankyoreh" newspaper urged the media industry to reform the kisha clubs in 1991. Further on, the Internet newspaper "Oh My News" fought against the kisha clubs in the Inchon district court in 2001 and then insisted that kisha clubs are against the public's right to know. Shutting down the kisha club helps the media to restore their energy to watch over the centers of power, as shown in the Korean case.
著者
森口 弘美
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.133-148, 2013-05

障害のある人の子どもからの大人への移行期における支援は,これまで教育における「個別移行支援計画」をとおして取り組まれてきた。本稿の考察によって,これまでの移行支援が就業重視になる可能性があること,また親や専門職が主導して作成される可能性があることを指摘した。障害者自立支援法の改正により,今後は相談支援をとおして社会福祉専門職が福祉サービスを利用する障害児に関わるチャンスが増えることから,就業支援に限定されないアプローチや障害のある本人の意向を尊重するアプローチを実践する必要性を提示した。
著者
大倉 高志 Takashi Okura
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.99, pp.97-135, 2012-03-15

本稿の目的は,警察,死体検案医,解剖担当者による自死遺族支援の可能性を検討することである.検討の結果,警察が自殺を装った殺人を疑うことが自死遺族を大きく傷つけていること,検案費用や解剖費用,検案書発行手数料の請求に明確な規定がないこと,検案医や解剖担当者が実施内容や結果について遺族への説明責任を果たしていないことなどが自死遺族の死別後の苦しみをさらに増大させている恐れがあることが分かった.警察は犯罪被害者支援の経験を活かし現場での支援実施責任者として自死遺族に特化した明確な支援を提供できること,検案医と解剖担当者は機転を利かせ積極的に警察と相談の上,遺族に結果を紳士的に説明し自死遺族に特化した支援を提供するなど,欠くことのできない重要な役回りを果たすことができることを指摘した.
著者
孫 希叔 ソン ヒスク Son Heesook
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.126, pp.51-72, 2018-09-30

論文(Article)困難に直面した新人ソーシャルワーカーは,他者の有する経験から導き出した判断や対処を,自分が直面している状況に意図的に関連づけ,実践の中での振り返りを行っていた。その過程は,新人ソーシャルワーカーの内面的変化に至る過程であり,それによって意識的に生成された知は,新たな状況に対する自己の行動様式として再構築され,より洗練された実践へと移行していることが示唆された。Novice Social Workers with neither enough empirical knowledge nor skills were puzzled by "the deviation from the image originally held" and were unable to stand the "imposition of different values," and they thus felt frustrated with the "lack of good experience." They were trying to resolve the anxiety arising from their immaturity and weak minds by "compromising with the thoughts of different perspectives." and "relying on others." However, if they encountered difficult circumstances again without having the opportunity to compensate for the "lack of experience sharing" or the "lack of the ability to reflect" due to the "absence of someone to consult or who can be a support," they became exhausted mentally and physically, thus causing a vicious circle of "negative self-evaluation."
著者
田島 悠来 タジマ ユウキ Tajima Yuki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.119, pp.19-40, 2016-12

論文(Article)本稿では、「ご当地アイドル」のパフォーマンスを事例に、住民主体の地域振興のあり方について探究した。その際、パフォーマンス研究という枠組みを用い、「ご当地アイドル」のメンバーおよび運営にまつわる関係者に対して実施した聞き取り調査の結果をもとに、メンバー(=パフォーマー)にとってパフォーマンスがどのような効果を発揮し、それが地域振興とどのように関わっていったのかを、シェクナー(2006)が提唱したパフォーマンス機能の類型を参照しながら考察した。以上の結果、「ご当地アイドル」のパフォーマンスは、パフォーマーにとって、娯楽、アイデンティティの確認・変更、共同体の構築・維持、教育・説得という主として4つの機能を持つことで、若い世代が主体となる地域振興の可能性を提示していることが導き出せた。This paper examines the regional revitalization as an empowerment by local residents, through a case study about the activities of regional idols in Japan. In this article, I discuss what impacts were had on the members of idol groups (performers) and how their performances were related to regional promotion, using the framework of performance studies and having semi-structured interviews with regional idols and their stakeholders. Refer to Schechner's theory about the functions of performance (2006), the performances of regional idols have mainly four functions for performers: to entertain, to mark or change identity, to make or foster community, and to teach, persuade, or convince. At the same time, this implies the potential for the empowerment of young generations.

5 0 0 0 IR 幽霊と参加

著者
小林 久高 猿渡 壮
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.1-19, 2014-09

「幽霊を信じる人ほど投票に行ったりボランティア活動をしたりする傾向がある」などと言えば,多くの人は不思議に思うに違いない。本稿の目的は,この奇妙な命題が真実であること,ならびに,この奇妙な命題が成り立つメカニズムについて,計量データを用いて明らかにすることにある。議論ではまず,霊的意識,政治参加,社会参加の間にプラスの相関関係が存在することが示される。次いで,霊的意識が自然志向,象徴志向,儀礼志向,共振性と関連していることが確認され,それらが人間の社会性や身体性に根ざした環境との結合に関わる原初的な意識であることが示唆される。最後に,この原初的な意識が参加を促す1つの道筋について,同類への愛着との関係を考慮しつつ分析される。人の政治活動や社会活動への参加の理由を個人の合理的な利益追求に求めるという観点は重要に違いない。しかしながら,参加を目的合理的な利益実現行動とする視点からは説明できない現象が存在することも事実である。本稿では,「幽霊と参加」という問題を分析することによって,政治参加や社会参加の背後に,個人利益の合理的追求には還元できない世界が存在することを示すものである。
著者
口村 淳 クチムラ アツシ Kuchimura Atsushi
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.126, pp.1-13, 2018-09-30

論文(Article)本研究の目的は,他職種からみた生活相談員に対するイメージや期待する役割を把握した上で,生活相談員業務のあり方について検討することである。社会福祉法人A系列の特別養護老人ホームを調査対象にし,生活相談員以外の専門職から102通の回答を得た。分析の結果,生活相談員は他職種から,相談援助や連絡調整を中心とした役割を期待されている傾向があることが明らかになった。This study aims to examine residential social worker's expected roles from the other professionals viewpoints and to consider the direction of residential social work. The target of the questionnaire survey was a social welfare corporation affiliated special nursing home for the elderly, and 102 professions other than residential social worker responded. As a result of analysis, the following trend was revealed that residential social worker was expecting the role of consultation aid and coordination mainly from other professions.
著者
内山 智尋 Chihiro Uchiyama
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.133, pp.137-159, 2020-05-31

超少子高齢化社会である日本では今,「地域」の果たす役割に期待が高まっている。幾度にもわたる介護保険の改正や「ニッポン一億総活躍プラン」,「地域共生社会」,「我が事・丸ごと」など国から出される方針はどれも地域住民の積極的な地域活動への参画を期待したものである。一方で地域では社会的孤立の問題などが深刻化し,地域における互助的機能も弱体化しており,理想と現実のギャップは大きい。本稿の目的は,地域共生社会の推進が難しいのは,国の政策や制度と住民が抱える課題の乖離にあることを指摘し,その解決策を事例分析や理論研究から導き出すことである。住民参加の意味を改めて問い直し,そこで果たすコミュニティソーシャルワーク(以下CSW)の効果的な取り組み方法について,ソーシャルクオリティの包括的視点やエンパワーメントの考え方,また筆者自身のコミュニティサポーターとしての経験から横断組織的な制度や活動の重要性を強調している。住民の参加と社会の発展は車の両輪のような関係であり,互いの相互作用により地域コミュニティが成熟化し,このような関係性の先に地域共生社会があることを提示している。論文(Article)
著者
空閑 浩人
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.108, pp.69-88, 2014-03

論文(Article)本稿は,日本人の文化を「場の文化」であるとし,それに根ざしたソーシャルワークのあり方としての「生活場モデル(Life Field Model)」の構想を試みたものである。それは,日本人の生活と文化へのまなざしと,日本人が行動主体や生活主体として成立する「場」への視点とアプローチを重視するものであり,日本人の生活を支える「生活場(Life Field)」の維持や構築,またその豊かさを目指す,言わば「日本流」のソーシャルワークのあり方である。その意味で,この「生活場モデル」研究は,確かに日本の「国籍」をもつソーシャルワーク研究である。しかし,それはいたずらに日本のソーシャルワークの独自性のみを強調し,そこに固執するものでは決してなく,日本の中だけに止まらない国際的な可能性をも持つものである。The purpose of this paper is to examine an idea of "Life Field Model" in social work theory and practice, while considering that Japanese culture is "the culture of field." This model thinks as important the look to Japanese life and culture, and the viewpoint and the approach to the "field" where Japanese people can be as the subject of one's action and life. Furthermore, so to speak, this model is "a Japanese style" of social work, which aims at maintenance, construction, and affluence of the "Life Field" supporting a life of Japanese people. In that sense, this study of "Life Field Model" is that of social work which surely has "nationality" of Japan. However, it never emphasizes and persists in only the originality of social work in Japan. This social work model may be effective as an international model of social work theory and practice.
著者
小畑 美穂 Miho Obata
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.136, pp.45-85, 2021-03-31

本論文は,医療ソーシャルワーク業務が,時代や政策といった社会の影響から受け身的傾向が強まり,社会へ働きかける視点が希薄化される経緯を整理し,要因との関係性を明らかにした。貧困や傷病で困窮する患者の受診・入院支援を中心に家族も含め地域社会を視野に業務を担っていた萌芽期を経て,戦後GHQ 撤退後の保健所医療社会事業後退によって地域社会への視点が希薄化した。同時に援助論の偏重傾向が強まった。創設された職能団体は,質向上と業務明確化を求めるも当初の目的から逸れ資格化運動に傾倒した。政策は少子高齢社会による財源支出抑制に対応するため基礎構造改革,早期退院,地域移行を推進した。医療ソーシャルワーク業務は,政策,組織に後進することで内向きとなり,個別に現れている生活問題を社会の問題とする視点は薄められた。論文(Article)
著者
田島 悠来
出版者
同志社大学
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.35-60, 2012-11

本稿は,雑誌『明星』(集英社),中でも,本雑誌の最盛期と目される1970年代の『明星』に着目し,雑誌の編集体制を捉えながらその読者ページの変遷を辿り,特に,読者ページ「ハローキャンパス」を中心にそこでどのような交流が図られていたのかを1970年代という社会的文脈の中で探ることを目的としている。その結果,1970年代の『明星』は,進学率の飛躍的な伸びとそれによる「ヤング・マーケット」の導入を背景として発展し,雑誌としての「黄金の時代」を迎えるとともに,代表的な読者ページである「ハローキャンパス」では,「ヤン グ」であることを基盤とした共同体が形成され,「スター/アイドル」と読者や,編集者を介しての読者同士という双方向のコミュニケーションが展開されていたことが明らかになった。