著者
出牛 真 柴田 清孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.1-46, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
113
被引用文献数
11 70

本論文では、気象研究所で新たに開発した全球化学気候モデル(気象研究所化学気候モデル バージョン2)について記述する。バージョン2(MRI-CCM2)は、バージョン1(MRI-CCM1)と同様のフレームワークをもち、地上から成層圏までのオゾンおよび他の大気微量成分の時空間濃度分布を計算するために必要な化学・物理プロセスをその相互作用とともに考慮している。詳細な対流圏化学過程を新たに組み込んだことで、対流圏と成層圏におけるオゾン化学過程をバージョン2では統一的に取り扱っている。バージョン2の化学モジュールにおいては、90の化学種・172の気相反応・59の光解離反応・16の不均一反応に加えて、改良されたセミ・ラグランジュスキームをもちいた格子スケールの輸送計算、サブ格子スケールの積雲鉛直輸送・乱流鉛直輸送、乾性・湿性沈着、さまざまな起源からの微量成分のエミッション、の各プロセスを取り扱っている。このバージョン2を用いて数値積分を11年間行い、1990年代の微量成分濃度分布の再現実験を行った。数値積分は、大気場の同化を行った場合と行わない場合の2通りについて行った。この数値積分結果においては、南半球極域の下部対流圏におけるオゾン濃度の過小評価および上部対流圏・下部成層圏の中高緯度における過大評価がみられるものの、中・下部対流圏におけるオゾン濃度の地理的な分布や季節変動はオゾンゾンデの観測とおおむね良く一致した。また、一酸化炭素(CO)・一酸化窒素(NO)・ヒドロキシルラジカル(OH)などの濃度分布の特徴もバージョン2は現実的に再現した。南半球高緯度においてCO濃度を約15ppbv過大評価したものの、バージョン2は観測されたCO濃度の季節変動をおおむね良く再現し、観測されたNO濃度の鉛直分布の特徴を捉え、またOHラジカルの濃度分布は最近の他の化学気候モデルが再現した濃度分布と同様の特徴を示した。
著者
斉藤 和雄 Lecong Thanh 武田 喬男
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.65-90, 1994 (Released:2006-10-20)
参考文献数
25
被引用文献数
7 7

紀伊半島、尾鷲付近での降雨の集中に対する地形効果をみるため、3次元山岳地形を越える流れの場を非静水圧ドライモデルを用いて調べ、観測された降雨量分布との比較を行った。 北東~南西方向に長軸を持つ楕円で単純化した地形に対する数値実験では、南東の一般風が弱い場合、山岳風上側下層の上昇流域は、斜面上と海上に2つのピークが見られた。海上のピークは、ブロッキングによる2次的な上昇流で、山岳前面最下層の逆風を伴っていた。それぞれのピークは一般風が小さいほど風上側に生ずるが、一般風が強く (あるいは安定度が小さく) ブロッキングが生じない場合は、海上の2次的な上昇流は見られない。紀伊半島地形の特徴的な湾曲は、南東風時のブロッキングの効果を高める働きを持つ。 1985年の紀伊半島での降水事例を解析し、尾鷲では潮岬に比べ雨量が多い事と大雨は東南東~南の下層風向時に生じている事を確かめた。紀伊半島の現実地形を用いた数値実験では、東~南のいずれの風向時にも尾鷲付近と紀伊半島南部に下層の上昇流域が見られ、榊原・武田 (1973) で示された紀伊半島の年平均降水量分布の極大地点と良い一致が見られた。ブロッキングにともなう海上の2次的な上昇流は南西~西の風向時には生じなかった。 大雨時に観測された一般場を用いた数値実験でも同様な傾向が見られ、シミュレーションで得られた下層の上昇流域は観測された降水分布に概ね良く対応していた。また、いくつかのケースでは、尾鷲の北東で観測された地上の降水域に対応する場所に山岳波による風下側中層の上昇流域がシミュレートされた。 実験結果は、実際の降雨分布と一般風の大きさの関係-弱風時の海岸域と強風時の内陸域-に対応している。また、弱風時にしばしば見られる紀伊半島風上側海上での対流性降雨バンドの発達に、紀伊半島の地形のブロッキングによる下層の水平収束が影響している事を示唆している。
著者
猪川 元興
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.81-102, 1984 (Released:2007-03-09)
参考文献数
18
被引用文献数
5 5

多変量最適内挿法を一般化した、統計的客観解析法が示される。一般化は二点で行なわれる。第一点は、斉次線形束縛条件が、その定式化の中に陽に組み込まれていること、第二点は、一般化された方法は、気候値及びその分散、予報値及びその予報誤差分散の両方を統一的に用いるが、従来の多変量最適内挿法は、それらの一方をファーストゲスとして用いるだけである。 線形束縛条件と合致する共分散行列は、ちょうど変分客観解析における束縛条件と同様に、その線形束縛条件で束縛された空間への射影演算子として機能することが、Phillips (1982) とは異なる方法で示される。 又、ここで示される方法は変分客観解析を次の二点において改良したものとみなせる。第一点は、この方法は統計的に最適な値を与えるが、変分客観解析は、その統計的意味があいまいであること、第二点は、この方法は、不規則に分布した観測点データから直接格子点上の解析値を与えるが、変分客観解析は変分法による修正を行なう前にあらかじめ観測値を格子点上に内挿する必要がある。 この方法のいくつかの応用例が示される。例の中で、変分客観解析の弱い束縛の統計的意味が示される。又、高度場、風の場の多変量客観解析に適用できる、発散共分散モデルも議論される。 この方法は、多変量最適内挿法と、線形束縛条件を課した場合の変分客観解析の両方をその特別な場合として含む。この方法を介して、多変量最適内挿法と、変分客観解析の間の関係が基本的に理解される。