著者
田中 泰宙 折戸 光太郎 関山 剛 柴田 清孝 千葉 長 田中 浩
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.119-138, 2003 (Released:2006-07-21)
参考文献数
80
被引用文献数
40 94

大気エーロゾルとその関連物質の分布の研究のために新たに開発された3次元エーロゾル化学輸送モデルModel of Aerosol Species IN the Global AtmospheRe (MASINGAR) の詳細を記す。MASINGARは大気大循環モデルMRI/JMA98と結合されたオンライン・モデルである。MASINGARは非海塩起源硫酸塩、炭素系、鉱物ダスト、海塩起源のエーロゾルを含み、移流、サブグリッドスケールの渦拡散と対流による輸送、地表面からの物質の放出、乾性・湿性沈着、化学反応を扱う。移流はセミ・ラグランジュ法によって計算される。積雲対流による鉛直輸送は荒川・シューバート法の積雲対流マスフラックスを基にしてパラメタライズされている。モデルの空間・時間解像度は可変であり、T42 (2.8°×2.8°)、鉛直30層 (0.8hPaまで)、で時間刻み20分での積分が標準的に扱われている。さらに、モデルは同化気象場データを用いるナッジング手法による4次元同化システムを内蔵し、これによって特定の期間の現実的なシミュレーションやエーロゾルの短期間の予報が可能となっている。2002年4月の鉱物ダストエーロゾルのシミュレーションから、MASINGARによって総観規模のエーロゾルのイベントが良くシミュレートできることが示唆されている。
著者
余田 成男 石岡 圭一 内藤 陽子 向川 均 堀之内 武 小寺 邦彦 廣岡 俊彦 田口 正和 柴田 清孝
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

全球気象解析データおよび力学コアモデルから気象庁1ヶ月アンサンブル予報モデルまでを駆使して、成層圏変化が大気大循環の主要力学過程に及ぼす影響と力学的役割を明らかにした。特に、成層圏突然昇温現象に関連して、周極渦周縁の大規模前線構造を発見するとともに、極域循環の予測可能性変動の新知見を得た。また、化学-気候モデル実験結果も加えて、成層圏寒冷化、太陽活動変動などの外部要因変動が季節内変動・年々変動の及ぼす力学的役割を明らかにした。
著者
柴田 清孝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.709-722, 2013-09-30

厳冬期の2013年1月12日に凍結した風蓮湖(根室)ごしに距離10〜20kmの範囲に1つの虚像の下位蜃気楼と数個の虚像の上位蜃気楼を併せ持つ蜃気楼が観測された.この蜃気楼について安定成層の温度プロファイルを仮定してレイ・トレーシングを行い,観測された蜃気楼を定性的に再現することができた.また,これらの成因について調べ,曲率半径のプロファイルが極小層をもつとき,その近辺の全反射による光が蜃気楼を形成することがわかった.極小層の下に極大層がある場合は,この層によるあまり曲げられないレイが重なり,ある距離で多像になる.下位蜃気楼のみがある場合も安定成層による全反射で再現することができた.曲率半径の極値の高度は温度の変曲点高度に対応し,安定成層で温度が下に凸から上に凸に変わる変曲点で曲率半径は極大,逆に上に凸から下に凸に変わる変曲点で曲率半径は極小になる.さらに,複数の距離で複数の虚像を示す蜃気楼は大気の温度構造の情報量を多く含むので,逆問題を解くには有利であり,蜃気楼から温度構造が得られる可能性について言及した.
著者
出牛 真 柴田 清孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.1-46, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
113
被引用文献数
11 70

本論文では、気象研究所で新たに開発した全球化学気候モデル(気象研究所化学気候モデル バージョン2)について記述する。バージョン2(MRI-CCM2)は、バージョン1(MRI-CCM1)と同様のフレームワークをもち、地上から成層圏までのオゾンおよび他の大気微量成分の時空間濃度分布を計算するために必要な化学・物理プロセスをその相互作用とともに考慮している。詳細な対流圏化学過程を新たに組み込んだことで、対流圏と成層圏におけるオゾン化学過程をバージョン2では統一的に取り扱っている。バージョン2の化学モジュールにおいては、90の化学種・172の気相反応・59の光解離反応・16の不均一反応に加えて、改良されたセミ・ラグランジュスキームをもちいた格子スケールの輸送計算、サブ格子スケールの積雲鉛直輸送・乱流鉛直輸送、乾性・湿性沈着、さまざまな起源からの微量成分のエミッション、の各プロセスを取り扱っている。このバージョン2を用いて数値積分を11年間行い、1990年代の微量成分濃度分布の再現実験を行った。数値積分は、大気場の同化を行った場合と行わない場合の2通りについて行った。この数値積分結果においては、南半球極域の下部対流圏におけるオゾン濃度の過小評価および上部対流圏・下部成層圏の中高緯度における過大評価がみられるものの、中・下部対流圏におけるオゾン濃度の地理的な分布や季節変動はオゾンゾンデの観測とおおむね良く一致した。また、一酸化炭素(CO)・一酸化窒素(NO)・ヒドロキシルラジカル(OH)などの濃度分布の特徴もバージョン2は現実的に再現した。南半球高緯度においてCO濃度を約15ppbv過大評価したものの、バージョン2は観測されたCO濃度の季節変動をおおむね良く再現し、観測されたNO濃度の鉛直分布の特徴を捉え、またOHラジカルの濃度分布は最近の他の化学気候モデルが再現した濃度分布と同様の特徴を示した。
著者
柴田 清孝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.541-555, 1997-04-25
参考文献数
65

高層観測, ライダー, 衛星のデータは, 成層圏バックグラウンド硫酸エーロゾルが, 人為起源もしくは自然起源によって, 徐々にではあるが全球的に増加していることを示している. 本研究はこのような事実を受けて, バックグラウンドエーロゾル増加が放射過程のみでどの程度成層圏温度を変化させるかを調べたものである. 温度変化は季節変化を含む, 対流圏の条件と成層圏の力学加熱を処方するFixed Dynamical Heatingモデルで求めた. バックグラウンド濃度の2,3倍の変化(0.55ミクロンでの光学的厚さの変化は0.0087, 0.0174)に対して放射の変化, 従って温度変化は線形応答を示した. 2倍増に対する太陽, 赤外, ネット放射の放射強制力はそれぞれ-0.18, 0.03, -0.15 Wm^2であった. 3倍増に対して低緯度中下部成層圏は赤外放射が支配的であるため, 約0.15度の昇温があり季節変化は非常に小さかった. 一方, 高緯度は太陽放射が支配的で, 約0.15度の降温があり, 夏至冬至に最大で春分秋分に最小になる0.1度の振幅の半年振動が顕著であった. 緯度帯による差や南北半球の差も基本場の温度やその季節変化との関連において述べられている.