著者
秋谷 進
出版者
公益社団法人 日本小児科医会
雑誌
日本小児科医会会報 (ISSN:09121781)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.77-81, 2020 (Released:2020-10-31)
参考文献数
15

選択性緘黙(以下,場面緘黙)とは,話す能力にはほぼ問題がないのに,特定の状況では1カ月以上声を出して話すことができないことが続く状態である。米国の精神障害の診断・統計マニュアルDSM-V(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed.))の診断基準においては,DSM IV-TR1)(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (4th-TR ed.))の「通常,幼児期・小児期または青年期に初めて診断される障害」分類から社交不安症群/不安障害群の一つと定義された。場面緘黙と診断した女児の「幼稚園や学校などで話せない」ことを「不安が背景にある」ととらえ,緘黙を始めとした症状を周囲が受け入れることで安心感を与え,不安に寄り添った対応をすることで症状が改善し良好な自尊感情を形成できた。
著者
桑原 博道
出版者
公益社団法人 日本小児科医会
雑誌
日本小児科医会会報 (ISSN:09121781)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.108-110, 2020

<p>新型コロナウイルス感染拡大に伴い,医療機関においても労務問題が発生している。業績が悪化し,従業員が同意したからといって,必ずしも基本給をカットできるものではない。休職をさせた場合にも,40%を超えて賃金カットすることには慎重になった方がよい。緊急事態宣言発令に伴う協力要請により休業した場合には,別途考慮が必要であるが,医療機関は要請対象外となるであろう。賞与のカットについては,就業規則等の定め方による。雇用関係の終了については,使用者としては,整理解雇の4要件(4要素)を意識して対応したり,退職勧奨を検討する。有期契約であれば,雇止めができる場合とできない場合がある。労働災害という側面から見た場合,医療職が新型コロナウイルスに感染した場合には,業務外で感染したことが明らかである場合を除き,原則として労災保険給付の対象となる。</p>
著者
宮川 美知子 伊藤 隆一 林 泉彦 辻 祐一郎 津田 隆 神川 晃 佐藤 德枝 沼口 俊介 野間 清司 宮下 理夫 三澤 正弘 泉 裕之 松裏 裕行 塙 佳生
出版者
公益社団法人 日本小児科医会
雑誌
日本小児科医会会報 (ISSN:09121781)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.230-234, 2021 (Released:2021-12-07)
参考文献数
9

いくつかの自治体で救急受診に際しての電話相談事業が活用され,軽症児(者)の救急外来受診や不急の救急車出動の抑制に効果を挙げている。代表的な事業は「#7119救急安心センター事業」と「#8000子ども医療電話相談事業」であるが,前者は総務省の所管,後者は厚生労働省の所管と異なる。運用状況も自治体によって違うことから,東京小児科医会小児救急部では,「日本小児科医会#8000情報収集分析事業ワーキンググループ」と相談・協力して,本会が#7119事業もしくは別番号で同様の事業を行っていると把握している19の自治体の小児科医会にアンケートを実施,運用実態を調査した。アンケートの回収率は100%で,集計の結果,消防庁などの行政が直接職員を雇用して運用している自治体は少なく,多くはその自治体以外に拠点がある民間業者に委託していることがわかった。また,1つの業者が複数の自治体から受託している場合もみられた。アンケート結果を検討し,各自治体内で抱える本事業運用上の問題点や課題,#8000との関係などを考察した。現在同様の事業を実施している地域や,今後#7119が行われる予定の地域への情報提供になると考えた。
著者
桑原 博道
出版者
公益社団法人 日本小児科医会
雑誌
日本小児科医会会報 (ISSN:09121781)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.78-80, 2023 (Released:2023-04-30)

摂食障害の患者について,入院管理のうえ,身体拘束を加えた場合についての裁判例を紹介する。この事案では,77日間にわたる身体拘束が加えられたが,東京地裁令和3年6月24日判決は,そのうち17日間の身体拘束を違法と解釈し,これに対し,東京高裁令和4年10月31日判決は,全期間を通じて,身体拘束は違法ではないと解釈している。いずれの判決も,医師の裁量を認めるものであるが,将来予測の難しさについて,どのように評価するかについての解釈が分かれたものである。この点については,東京高裁の解釈がより正しいものとして是認できる。本訴訟事例は,医師の裁量に基づく判断に対する裁判所の判断が正しくないと思われる場合には,控訴などの上訴を積極的に検討する必要があることを示す1例でもあるといえる。