著者
松村 俊和 武田 義明
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.131-137, 2008
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;1. 淡路島の水田畦畔法面における二次草原で,管理放棄後の年数と種数および種組成との関係を明らかにすることを目的として,管理が継続されている管理地と管理放棄後1-6年経過した放棄地で出現種とその被度および高さを調査した.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 管理地の出現種数の平均値は25.3種で放棄地よりも有意に大きかった.放棄地での放棄後の年数と出現種数との間には,有意な負の相関が認められた.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 積算被度と種数との間に有意な負の相関があった.また,0.2m以下の階層,0.2mを超え0.4m以下の階層および0.4mを超え0.6m以下の階層で,上層の積算被度と種数との間にそれぞれ有意な負の相関があった.<BR>&nbsp;&nbsp;4. 管理地の種組成は放棄後の年数が3年以内の放棄地とは類似していたものの,放棄後の年数が4年以上の放棄地とは異なっていた.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 管理地には28種が特徴的に出現していたのに対して,放棄地に特徴的に出現していたのはネザサ類のみであった.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 管理放棄による出現種数の減少と種組成の変化は,放棄後数年間という短期間に起こっていた.これは,草刈りによって被度の増加を抑えられていたセイタカアワダチソウやネザサ類が,管理の放棄とともに高さおよび被度を増加させたことによると考えた.
著者
島田 和則
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.159-167, 1999
参考文献数
31
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;1.1992年9月に神津島天上山の低木林で発生した林野火災跡地において,5年間の群落動態を継続調査し,その特性,特に地表攪乱の影響について考察した. <BR>&nbsp;&nbsp;2.被災地域の植被率は5年を経過しても平均40%ほどで,平均90%を超える無被害地と比べて低い状態にとどまっていた.被災後萌芽再生した木本個体は,その後の枯死率は低く5年間順調に生育を続けていた.萌芽再生した前生個体の間には十分裸地空間があったが,実生や地下部からの徒長による木本の新規加入は少なく,毎年少数の個体が侵入・定着するにとどまった. <BR>&nbsp;&nbsp;3.天上山の地表は,多孔質流紋岩が厚く一様に風化した砂状の表層基質に被われており,植被を失った被災地において,この砂状の表土の侵食が顕著であることが観察された.侵食による表土の移動は,実生の定着に影響していると予想されたので,実生を想定した2種類のサイズの木製ピンを設置して2年間追跡調査を行った.その結果,叢生株・露岩等の有無,ピンのサイズの大小により被害に差が認められた.これらより,実生の定着初期段階で,表土の移動による攪乱圧が強く働いていることが予測され,上方に何かシェルターになるものがあるか,または個体サイズが大きければ表土の移動による死亡率が低いことが示唆された. <BR>&nbsp;&nbsp;4.もともと表土が侵食を受けやすく,しかも台風の常襲地帯である本調査地においては,一度植被を失うと表土の安定を失い植生の回復が困難になると思われる.被災により裸地化した空間への木本種の定着は細々と進行するにとどまり,回復には長期間を要すると考えられる.
著者
原 正利
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-12, 2006
被引用文献数
4

&nbsp;&nbsp;1. 八溝山地および阿武隈山地,北上山地を中心とする東日本太平洋側におけるブナの分布について,標本(196点)および文献(233件),研究者からの私信(28件)を情報源として分布情報データベースを作成した.さらに,これに基づいて72地域で現地調査を行い,あらたに206個体のブナの分布データを得た.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 上記の分布情報を解析した結果,ブナはこれらの山地に点々とではあるが水平的に広く分布し,垂直的にも海抜約100m前後から1000m以上の広範囲に分布することが確認された.<BR>&nbsp;&nbsp;3. ブナの垂直分布下限は暖かさの指数WI=90℃・月,寒さの指数CI=-10℃・月,1月の平均気温=1℃とほぼ一致した.ブナは常緑広葉樹の分布上限(北限)に平行して,一部,分布を重複させつつ,分布下限(南限)を形成していることが明らかとなった.<BR>&nbsp;&nbsp;4. ただし,内陸に位置する八溝山地中部の鶏足,鷲子の両山塊とその周辺地域では,ブナの垂直分布下限が著しく下降しWI=105℃・月まで達していた,この地域は関東平野内陸における常緑広葉樹の分布北限域であり,冬期の低温や季節風が常緑広葉樹の分布を限定的なものとしていることや,植生史的にみて常緑広葉樹林の分布拡大が遅れたために,ブナの個体群が低海抜地に遺存分布していると考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;5. ブナの分布下限を規定する要因として,常緑広葉樹との競争関係が重要と考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 東日本太平洋側において,ブナが種としては低海抜地まで分布するにもかかわらず,ブナ優占林の分布が比較的,高海抜地に限られる原因について推論した.<BR>&nbsp;&nbsp;7. ブナの垂直分布域は,緯度的に南部に位置する八溝山地・阿武隈山地では山地の山頂付近を除き大部分,下部温帯域に含まれるが,北上山地では,上部と下部を含む温帯全域に及んでいることを指摘した.