著者
山路 奈保子 因 京子 藤木 裕行
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.45-52, 2014-12-26 (Released:2016-11-20)
参考文献数
6

日本語母語話者大学生の文章作成技能の獲得を支援する方法の開発を目ざし、学部後半の文章作成技能獲得状況とそれに伴う認識の変化を把握するため、工学系専攻の学部から大学院に進学した直後の学生に対し、本人が学部3年生時に書いた作文の問題点を指摘するコメントと、同一主題による作文の作成を求めた。作文から文章作成技能が向上したと判断された学生に対しては、自己評価と獲得過程についての自己認識を問うインタビューを実施した。コメントには、根拠の弱さや説明不足の指摘、冗長さの整理やより適切な語・語句への提案がみられ、思考と言語表現の両面で厳密さ・明確さへの意識が高まったことが観察された。大学院進学直後の作文では、全体構造が重層化し、それがメタ言語表現などによって明示されており、学術的文章らしい特徴を強めていた。内容も、議論や判断の前提の記述が出現し、主張に至る推論の各段階が詳細に提示されるなど、議論の過程を読者と共有するために有用な記述が増加していた。インタビュー調査では、学術的文章らしい構造や表現の使用が、単に模倣や形式遵守の意識からではなく「受け手の理解を得られる効率的な伝達の要件」として内面化されていること、受け手への配慮の重要性を認識する上で「自分の表現意図が通じない」という失敗を含む対人コミュニケーションでの経験など、学術的文章執筆以外の経験が有用に働いていることが示唆された。
著者
村岡 貴子 因 京子
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.35-40, 2015

大学でのアカデミック・ライティング教育を、学位取得への支援だけでなく、その後社会で専門家として活躍する可能性を拓くものとして展開するための要件を認識すべく、国内外の大学教員6名に面談し、職業の場での日本語の必要度、学習方法、日本語教育への要望などについて見解を調査した。6名の調査協力者は、専門分野や国籍を問わず多読を実践し、他者からのフィードバックを頻繁に受けて論文作成方法を獲得した経験を持つ。英語使用の傾向が強まる昨今においても、日本語使用が死活的に重要な局面があると考えている。周辺的文章から情報を得ることの重要性も指摘された。日本語教育学専攻の協力者は、日本での学位論文作成過程で得た知見を基に、自身は受ける機会のなかった学部生対象のライティング授業を自国において展開していた。以上から、AW教育では、社会での活躍の手段となる日本語能力の獲得に必要な学習内容と方法、特にその学習量についての適切な予測を与え、課題に取り組む態度と学習技能を獲得させる必要があることが示唆された。今後、学習者に適切な予測形成、主体的学習を促すリソースと提供方法を開発していくことが課題であると考えられる。
著者
因 京子 村岡 貴子 仁科 喜久子 米田 由喜代
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
no.10, pp.29-34, 2008

テキスト分析タスクを含む日本語ライティングの授業を15週間行い、終了時の自己修正課題とアンケート、さらに、受講実績が100%の学習者6名に対して行った他者の文章への評価と自己学習に対する評価の聞き取り調査によって、テキスト分析タスクの有用性を検証した。6名のうち5名は、全体構造や文体や語彙だけでなく曖昧性の少なさ等内容の特徴についても具体的な観察を行っており、論文として適切な構造を持つ文章を高く評価した。しかし、1名は、漢字語彙等の局所的問題を重大に捉えて平易さを優先し、構造的問題が残る文章を高く評価した。学習者全員に、自己の変化や日本語学習の目標についての積極的で明確な意識が見られた。以上から、この授業によって学習者の大部分は専門的文章の在り方についての知識、すなわち「論文構造スキーマ」を形成しつつあるか、既存の論文構造スキーマを学習に活用できるようになったことが示唆され、テキスト分析タスクの有用性が示された。The effectiveness of text-analyzing tasks in internalizing "schema" of academic texts was evaluated by analysis of the learners' judgments on other people's reports and the perception of their own learning. Six regular participants in a 15-week writing course that incorporated text-analyzing tasks such as mutual evaluation and peer correction through group discussion were requested at the end of the course to make judgments on three reports of varying qualities. Five participants gave correct judgments based on fairly detailed and reasonable observations on stylistic features, structure, and the quality of information. A course-final questionnaire and interviews showed that all the learners had a positive and clear perception of their learning and balanced expectations of what to be learned. Our text-analyzing tasks were considered to be effective in promoting internalization of schema of academic texts.