著者
松村 昌家
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.103-120, 2003

幕末にヨーロッパ諸国に向けての使節団派遣のお膳立てをした駐日英国公使オールコックは、その準備の過程で、外交問題とは直接に関係のない二つのプランを練っていた。一つは、一八六二年五月一日に行われる第二回ロンドン万国博覧会の開会式典に、使節団の代表数名を送りこむこと。そして万博会場に日本製品を展示することによって、日本に対するイギリス側の関心を引きつけること。二つとも日英交流史における画期的な出来事であったにもかかわらず、従来あまり注目された形跡がない。本稿では、六二年万博開会式典に臨んだ七名の使節団代表者たちの、文字どおりの異国体験に注目するとともに、この日のパフォーマンスとして仕組まれた「ピクチャー・ギャラリーズへの大行進」が、いかなるものであったかを解き明かす。特に「ピクチャー・ギャラリーズ」は、イギリスにおける万博文化史のなかで、きわめて重要な意味をもっているのだ。日本から送られた展示品は、大部分がオールコックの蒐集になるものであったとはいえ、万博における日本の初参加であったことに変わりはない。これを使節自身はどう見たのか、そしてイギリス側からの評価はどうであったのか。やはり見逃してはならない興味深い日英交流史のひとこまであったのである。
著者
勝部 章人
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.A53-A64, 2003

アメリカ・ポピュラー・ミュージックのルーツを一般的によく言われる南部の黒人音楽であるブルースやゴスペルなどではなく、それとは別のカリブのフォーク・ミュージックへと辿る。1950年代、カリプソというカリブの音楽のブームがアメリカで巻き起こり、それがアメリカのポピュラー・ミュージックに大きな影響を及ぼす。しかしそれ以前にこの地域の音楽がすでに何らかの形で影響を与えていたのではないかを探るためにカリブ海の島の中から英語圏のジャマイカ、バハマとキューバを取りあげ、ニュー・オーリンズという他の町とは異なった当時の国際都市を通してどのようにアメリカへ影響を与えたかを考える。アメリカ・ポピュラー音楽の持つ屈託のない明るさという側面を作り上げた1つの要素はカリブの黒人のフォーク・ミュージックに由来し、その側面への影響力は南部よりこちらの方が大きかったことを議論する。
著者
森 道子
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.A93-A107, 2003

Where Angels Fear to Tread と『雪国』とは、海外旅行と国内旅行という違いはあるが、ともに鉄道による旅行小説である。特に注目したいのは両者におけるトンネルの効果的な活用である。旅人である主人公に密着した三人称の語り手が故郷と正反対の、ユートピア性をもつ旅先の土地での事件と徒労を描写する。タイトルに暗示されるように登場人物の間に浄化作用が、宗教的かつ神話的に働くことや、異郷の情景描写など具体的な旅行の魅力を存分に備えながら、旅先で起きる死によって旅とは人生であり、その行く先は死であるのを象徴することなどの共通点を探り、二作品を比較対照した。
著者
張 起灌
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A61-A76, 2006

17世紀以後の韓国社会、当時の朝鮮王朝は、都市の発達に伴って近代的な初期資本主義社会へと徐々に移行していく。朝鮮王朝において封建社会の基盤を成していた身分制度と地主制度を中心に、その崩壊の過程について考察する。また朝鮮時代後期の社会変動に伴い、伝統仮面劇「タルチュム」の世界にどのような変化が生じたかを分析する。厳格な身分制度のもと長い間抑圧されていた民衆意識は、封建社会の解体とともに目覚め、成長していく。その過程でタルチュムの世界においても、地域限定的・閉鎖的な構造を持つ農村型タルチュムから、演戯地域や参加者の面で開放的な構造を持つ都市型タルチュムへと変貌していくことになる。つまりタルチュムは農村の祭儀から民衆芸能へと変容し、現在のタルチュムとほぼ同一の形態を持つ「都市タルチュム」が成立するのである。