- 著者
-
大澤 隆幸
- 出版者
- 静岡県立大学
- 雑誌
- 国際関係・比較文化研究 (ISSN:13481231)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, no.1, pp.69-86, 2005-09-16
ハーンは『怪談』序で、「雪女」に取りかかるきっかけを「武蔵国西多摩郡調布のある農民が、生まれ故郷の村の伝説として私に語ってくれたもの」と記した。序は作品の一部であるので、フィクションの可能性がないとは言えない。しかし、ハーンに三男の清が生まれて、1900年9月頃「府下調布在の農家の娘」お花(一雄189)が子守として来て、また「大久保に普請をするに当り」(同190)お花の父宗八が雇われた(大久保への転居は1902年3月)。このような経緯や『八雲』第14号の小泉時氏の論考「青梅と雪女」から見て、宗八がハーンに原語を語った可能性はあるだろう。チェンバレン宛の手紙や「幽霊と化げ物 Of Ghosts and Goblins」から、彼には雪女について松江時代から相当の知識があったことが知られる。そこに大久保転居後に刺激が加わり、「雪女」が成立したのではないかと筆者は推測する。本稿は、この作品がハーンが日本文化と対話して生まれたものであることを論じる。