- 著者
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六鹿 茂夫
渡邊 啓貴
小久保 康之
廣瀬 陽子
佐藤 真千子
- 出版者
- 静岡県立大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本研究では、欧州近隣諸国政策(ENP)のイースタン・ディメンション、すなわち西部新独立国家(WNIS:ウクライナ、ベラルシ、モルドヴァ)および南コーカサス(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)をめぐる政治過程について海外調査研究をした結果、以下の結論を得た。1.EUは、ENPの二国間関係に加え、黒海シナジーという多国間協力を展開し始めた。2.ENPのアクション・プランは南コーカサスにも適用されるに至った。3.EU=ロシア関係において貿易は増大したものの、深刻な問題が露呈した。エネルギー問題の解決は困難を極め、「4つの空間」ロードマップも、人権やマスメディアの自由および凍結された紛争をめぐる溝を埋められないでいる。4.凍結された紛争をめぐるOSCEとEUの関係は、前者が主要アクター、後者がそれを後方支援する関係にあり、OSCEの紛争解決における重要性が増している。5.とはいえ、凍結された紛争におけるロシアの影響は依然として重要であり、その役割は極めて大きい。(6)EUはモルドヴァのトランスニストリア紛争解決にも一層積極的となり、問題を残しつつもEUBAM(国境支援使節)氏遣で同地の闇経済摘発と民主化に貢献し始めた。(7)米国の対黒海地域政策としては、ポーランドの米系NGOへの支援を通したウクライナの民主化支援や、チェコおよびポーランドへのレーダー基地の設置計画が重要課題である。だがロシアはその代替案として、アゼルバイジャンのレーダー基地を提示している。これは米露関係が中欧と南コーカサスという二つの広範な地域に展開されている証左であり、広域ヨーロッパを見る際の重な分析視角を提示するものである。ENPを通してWNISや南コーカサス諸国の民主化と市場経済化が推進され、それに伴い黒海地域諸国全体の地政学的戦略的重要性が一層高まった結果、今や黒海地域の安全保障環境が劇的な変化を見せている。