著者
菊澤 佐江子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.4, pp.99-119, 2007-06-23 (Released:2012-09-24)
参考文献数
26

少子高齢化が進む中,介護を受ける側である高齢者と介護を担う側である若・中年者の人ロバランスの不均衡が生じている.また,産業構造の変化,低い経済成長,女性の職業意識の向上といった諸々の要因により,女性の被雇用者としての就業は増加の一途をたどっている.こうした戦後の大きな社会変化の中,女性の介護はどのように,またどのような面で,変わってきたのだろうか.本稿は,全国家族調査(NFRJsO1)を用いて,女性の介護経験とその規定要因の歴史的推移の実態についてのコーホート比較を行い,ライフコース視点から考察した.分析の結果,女性の介護経験率は,1940年代生まれの者以降顕著に高くなり,「中年期のいずれかの時点で一度は誰かの介護を行う」女性のライフコースが,この時期からより一般化していることが明らかとなった.また,女性の介護の規定要因については,どのコーホートについても,夫が長男である女性が介護を担う確率は,夫方親との同居という変数を介して,一貫して高いという結果が得られる一方,フルタイム被雇用就業が介護を担う確率を低くする傾向はもっとも最近のコーホートにのみみられることが示された.
著者
和泉 広恵
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.171-192, 2013

本稿の目的は,親族里親制度の活用に関する課題を検討し,新たな制度の活用の方向性を模索することにある.親族里親制度が創設されてから,10年が経過した親族里親制度は,創設当初から存在していた民法の扶養義務と子どもの福祉という理念の聞の溝を継承したまま,積極的に活用されることなく,存続してきた.しかし, 2011年3月11日の東日本大震災後に被災者支援」の目的で認定者が拡大され,制度自体も大きく改変された.この改変は「親族」の範囲を再編成し,親族聞に新たな差異を生じさせている.親族養育者は,被災児童の養育者である/なし,直系血族・兄弟姉妹/それ以外の親族の2つの基準によって分断され,里親の認定基準に関する区別と待遇の格差がもたらされた.親族里親制度の改変は「親族の範囲」や「親族の扶養義務」 への解釈が容易に変更されうるということを明白にした.これは,今日でも親族を扶養すべきという意識が強く社会規範として保持されている一方で,そのことが必ずしも親族里親制度の積極的な活用を妨げるものではないことを示唆している.今後,親族里親制度に求められるのは,子どもの福祉という観点から制度の意義を捉え直し,子どものニーズに応じる形で緩やかに制度の活用を拡大していくことである.
著者
藤澤 由和
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.4, pp.44-60, 2007-06-23 (Released:2012-09-24)
参考文献数
34

ソーシャル・キャピタルという考え方に対しては, 現在, 学術分野における関心のみならず, 多様な政策領域においても関心が高まっている. その理由としてはソーシャル・キャピタル概念の多様性とその適応可能性といったものがあるのであるが, 健康との関連性においてソーシャル・キャピタルを検討する研究領域においても, ソーシャル・キャピタルの捉え方に関しては多様な考え方が存在してきたといえる. また当該研究領域, なかでも公衆衛生学の分野などを中心に, 過去20年以降多くの多様な領域の研究者らの関心を集めてきた健康に対する社会的決定因を検討する研究の流れは, この分野においてソーシャル・キャピタル概念を導入するための一つの背景となっているといえる. なかでも所得格差が健康に与える影響の問題また健康の地域格差といった論点は, とくにソーシャル・キャピタル概念を, 健康との関連性において検討しようとする研究領域において重要な方向性, 具体的には地域レベルの特徴とその変化を実証的にとらえるという方向性を与えてきたといえる. そこで本論は, こうした健康とソーシャル・キャピタルの関係性を検討する研究領域における理論的な背景とこれまで行われてきた代表的な実証的研究を概観し, 福祉領域などをはじめとする他の地域を検討せざるを得ない領域におけるソーシャル・キャピタル概念の可能性を検討することとする.