著者
和泉 広恵
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.37-53, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
16

本論文は、岩手県の親族里親等支援事業の実践を通して、震災支援における「支援者-被支援者」の関係性のあり方について追究することを目的としている。この事業は、岩手県里親会が震災以降に親族養育者となった人に対して、被災地でサロンを開催する事業である。2011年10月から始まり、現在も継続している。     本論文では、里親会会長へのインタビューと事業のフィールドワークを元に、この事業の意義について、分析を行った。調査から示されたのは、里親が近親者の死という親族養育者の「痛み」に衝撃を受けたことと親族養育者に対して控えめな支援を行っていることであった。控えめな支援とは、震災ボランティアとも当事者同士とも異なる、親族養育者の「痛み」にただ寄りそうという支援である。また、支援の背景には、震災後に生じた「岩手」という領域の構築と支援を行う過程で示された子どもの受け皿としての「里親」の役割があることが明らかになった。
著者
和泉 広恵 野沢 慎司
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.34-37, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
5

近年,家族社会学においては,「家族」の多様化と意味変容に関する研究が蓄積されている.一方で,様々な領域において「家族」がその外側からの介入/支援を受け入れ,それによって維持・再編されるようになってきた.そこで,本シンポジウムでは,「家族」に対する専門家という第三者の介入が,精神保健・司法・福祉の各領域においてどのように実践されているのかを検討し,家族社会学の新たな展開の可能性を論じることをねらいとした.本シンポジウムでは,中村伸一氏(家族療法家),原田綾子氏(法社会学),中根成寿氏(福祉社会学)の3名の報告に対し,天田城介氏,松木洋人氏からのコメントが行われた.オーガナイザーおよび司会は,和泉広恵・野沢慎司が務めた.
著者
和泉 広恵
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.171-192, 2013

本稿の目的は,親族里親制度の活用に関する課題を検討し,新たな制度の活用の方向性を模索することにある.親族里親制度が創設されてから,10年が経過した親族里親制度は,創設当初から存在していた民法の扶養義務と子どもの福祉という理念の聞の溝を継承したまま,積極的に活用されることなく,存続してきた.しかし, 2011年3月11日の東日本大震災後に被災者支援」の目的で認定者が拡大され,制度自体も大きく改変された.この改変は「親族」の範囲を再編成し,親族聞に新たな差異を生じさせている.親族養育者は,被災児童の養育者である/なし,直系血族・兄弟姉妹/それ以外の親族の2つの基準によって分断され,里親の認定基準に関する区別と待遇の格差がもたらされた.親族里親制度の改変は「親族の範囲」や「親族の扶養義務」 への解釈が容易に変更されうるということを明白にした.これは,今日でも親族を扶養すべきという意識が強く社会規範として保持されている一方で,そのことが必ずしも親族里親制度の積極的な活用を妨げるものではないことを示唆している.今後,親族里親制度に求められるのは,子どもの福祉という観点から制度の意義を捉え直し,子どものニーズに応じる形で緩やかに制度の活用を拡大していくことである.