- 著者
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和泉 広恵
- 出版者
- 福祉社会学会
- 雑誌
- 福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, pp.171-192, 2013
本稿の目的は,親族里親制度の活用に関する課題を検討し,新たな制度の活用の方向性を模索することにある.親族里親制度が創設されてから,10年が経過した親族里親制度は,創設当初から存在していた民法の扶養義務と子どもの福祉という理念の聞の溝を継承したまま,積極的に活用されることなく,存続してきた.しかし, 2011年3月11日の東日本大震災後に被災者支援」の目的で認定者が拡大され,制度自体も大きく改変された.この改変は「親族」の範囲を再編成し,親族聞に新たな差異を生じさせている.親族養育者は,被災児童の養育者である/なし,直系血族・兄弟姉妹/それ以外の親族の2つの基準によって分断され,里親の認定基準に関する区別と待遇の格差がもたらされた.親族里親制度の改変は「親族の範囲」や「親族の扶養義務」 への解釈が容易に変更されうるということを明白にした.これは,今日でも親族を扶養すべきという意識が強く社会規範として保持されている一方で,そのことが必ずしも親族里親制度の積極的な活用を妨げるものではないことを示唆している.今後,親族里親制度に求められるのは,子どもの福祉という観点から制度の意義を捉え直し,子どものニーズに応じる形で緩やかに制度の活用を拡大していくことである.