著者
大塚 姿子
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.10, pp.63-70, 2011-10-15

音楽の世界が環境と大きく関わるようになったのは、ケージの思想、その後のサウンドスケープの登場があってのことである。環境と芸術の関係性がより重要になってきている現在、それに続く思想、実践はどのような方向に向かっているのか、そして環境とは何か、この難題にそろそろ取り組まなければならない時が来ている。本研究では20世紀現代音楽史上の環境と関わる試みを再考察し、環境の認識の変遷を明らかにする。また環境芸術、環境デザインといった領域における環境の捉え方に対する考察も同時に行なうことにより、現在の環境に関するアーティスティックな実践の方向性について探っていく。さらにサウンドスケープ的な視座にとどまることなく、独自の思考を押し進めている民族音楽学やサウンド・アートの分野での環境と関わる研究、実践についての検証を行った。その結果、音が人間および他の生物を含む環境を理解し、自らをそして他者を位置づけ、存在するための重要な媒介としての役割を果たしていること、またそれを明らかにすることが自らの実践であるとしているアーティスト達の志向を確認することができた。そしてこのような実践がどのような意義や価値を持つのか論じると共に、今後の展望についても考察を試みた。
著者
高橋 靖史
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.8, pp.29-36, 2009-03-31

本稿では思考と実践の絶え間ぬ繰り返しである私の彫刻制作を論拠に、肉体と世界と彫刻とがどのように関係し合っているかを論述した。肉体は主体と外界の境界であり、同時に両世界をつなぎ合う媒体でもある。こうした肉体と世界の両義的、相互依存的な関係を肉体と物質が直に触れ合う制作により探り、形象化する試みが「私の彫刻」である。まず、身体と世界の関係性を巡っての彫刻制作には、ポジショニング(位置取り)が重要である。ポジショニングとは主体と世界の接続の仕方のことであり、私という主体が身体ごと彫刻素材の中に入り制作するというポジションを取ることで、彫刻はメディウムとして機能し、身体-彫刻-世界の関係を結べると考える。世界の側から彫刻を見てはいけない。彫刻を外側からオブジェクトとして見るのではなく内側から関係性として見なければならない。つまり彫刻とは主体と世界の間に介在し素材に形をあたえる手段により両者を媒介するメディウムという事物なのである。こうした制作のポジション、彫刻のポジションに基づいて、制作した作品から具体例として五作品を揚げて制作研究の報告をした。その全てにおいて私がめざしたのは「身体を型取った、古着、ラテックス、ギプス、段ボールなどを積層して、見るものがその中に入り内と外、身体と空間、主体と世界を関係づける彫刻をつくること。」である。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-7, 2009-03-31

彫刻設置事業における既成作品購入型とは、既成の作品の中から適切なものを選択・購入し、設置するという、きわめてシンプルな作品選択の方法である。この方法では、原理的に作品内容の中に設置場所との関連性は含まれず、設置される作品の内部にサイトスペシフィシティーは必然的に生じない。本論では、最初に計画的で継続的な彫刻設置事業に既成作品購入型の作品選定システムを取り入れた1973年からの長野市、その前後に行われた旭川市の設置事業、そして1978年から81年にかけて横浜市により大通り公園で実施された設置事業を分析対象とした。なお、この分析過程において、田村明の言説は重要である。その結果、既成作品購入型は、モニュメント性が希薄な作品が得られるという点で、自由主義社会にふさわしい作品選定方法として捉えられていたことがわかった。しかし、冷戦が終結し、バブル経済が崩壊した後の社会では、それは意外にも「自由主義の推奨する芸術」を賛美し、あるいは「高価で贅沢な商品」を賛美するモニュメントに変質してしまった可能がある。
著者
山田 良
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.9, pp.53-56, 2010-03-31

自然環境における風景を、造形作品を通してどのように見せるかという考察を続ける一方、作品をつくる側として、風景を喚起させる空間とはどのような状態のものか、作品そのものが鑑賞者にとっての風景となりうるかという考察を継続している。本論では、風景を喚起させる空間インスタレーションの制作研究として、空間知覚の概念と実例を(1)動きをアフォードするインスタレーション(2)肌理・テクスチャーから解放されたインスタレーションと二つに分類し論じた。またこの概念を通じての筆者による《Pemetrate Garden》《Vertical Landscape》の二作品を報告した。今後は、素材の選択・鑑賞者との関わり方・制作方法などに関して複数の造形アプローチをパラレルに実践することで、多様な試行を継続する必要があるだろう。「風景」の知覚をもとに作品を考えることで、これまでよりさらに鑑賞者と密接な空間を成すことができると考えている。