著者
田島 悠史 小川 克彦
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.57-64, 2012

環境芸術学の分野で取り上げられるテーマとして、美術館外で展開されるアートプロジェクトがある。近年では、地域活性化などの動きと連動するものが急増している。アートプロジェクトは開催地、主催者、予算、作家のタイプ、規模など、さまざまな要素によって、その立ち位置は全く異なる。そのため、アートプロジェクトが地域活性化において、どの役割を担っているかを整理して、効果的な作品や企画の条件を明らかにすることが急務である。そこで、本研究ではアートプロジェクトで展開される芸術作品の役割として、地域メディアを提案する。さらに、地域メディアの役割を果たす芸術作品や芸術家の条件を明らかにする。本稿では、現在増えている「ボトムアップ地方型アートプロジェクト」に着目する。その上で、研究に際してはアートプロジェクトの現場に長期間滞在し、観察、鑑賞者や芸術家、関係者との発話の収集、アンケート調査を行った。その結果、地域メディアの条件として、人を参画させる点にあると結論付けた。具体的には、1)住民参加、2)人を含めた「環境」の芸術化、3)社会的アクティビティに対する実効性、4)地域メディアとしての芸術家、の四つを抽出した。
著者
石田 陽介
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.12, pp.69-76, 2013-10-26

まちそのものが抱える病理を診立て、アートシェアリング活動の推進を以て地域社会におけるケア文化のリハビリテーションを図っていくことは出来ないか。「アートで私をリハビリテーションする」ことを目指すコミュニティアート活動と、「アート(自体)を私がリハビリテーションする」地域での社会芸術教育活動を接続させながら、福岡市箱崎地区において2009年より2013年現在までの五年以上に渡って継続的に展開している。この二つのリハビリテーションを通して、ケア文化が豊かに循環する地域創造活動を'ソーシャル・アートセラピー'と位置づけたい。地域住民のLife (暮らし・人生・生命)に根ざすコミュニティアート・プロジェクトのアクションリサーチを通して'ソーシャル・アートセラピー'の果たしうる機能とその構造について考察していく。
著者
工藤 安代
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集
巻号頁・発行日
no.1, pp.5-12, 2001-12-25

この小論は,現代パブリックアートにおけるメモリアルの担う役割が変容している事について論じる。最初に,ロダンがカレー市のために制作したメモリアルについて言及し,メモリアルにおける近代的思考の始まりをその作品を通して検証する。ロダンの『カレーの市民』は,政治的,そして権威的に歴史を賞賛し単一的価値を教化するものとして存在した中世におけるメモリアルのコンセプトを明確に否定した出発点として捉えられる。次に2人の現代若手アーティストによる重要なメモリアルについて,それをめぐる論争に焦点を絞り分析する。マヤ・リンによる『ベトナム・ベテランズ・メモリアル』とレイチェル・ホワイトリードのウィーン市における『ホロコースト・メモリアル』に関して,その立地場所やアーティストが選ばれた経緯,そして建設における一連の賛否両論の討議から検証する。最後に,両作品に纏わる論争を分析し,両者の共通点と相違点を考察する。さらにこの小論において,いかなるメモリアルが現代社会において可能であるか検討し,また社会的価値を持つことができるか検証することを試みる。
著者
柴田 葵
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.9, pp.81-86, 2010-03-31

「彫刻シンポジウム」とは、彫刻家たちが一定期間特定の場所に滞在し、彫刻の公開制作を行うことを旨とする活動である。一方、「アーティスト・イン・レジデンス」Artist in Residence(AIR)とは、国内外から芸術家を招聘し、創作活動やコミュニティとの交流を支援する事業である。両者は互いに共通する側面をもった芸術活動の形態であり、密接な関係性を有しているにも関わらず、これまでこの二つが関連付けて論じられる機会はほとんどなかった。そこで本稿では、我が国におけるAIRの先駆的形態としての彫刻シンポジウムの要素に着目し、彫刻シンポジウムとAIRとの関連性・連続性を論じることを試みる。
著者
多田 満
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.9, pp.93-96, 2010-03-31

科学(生態学)からみた環境(生態系)は、その構造と機能により、人とは生態系サービスにみられる物質的なつながりだけでなく、文化や芸術を生み出す精神的なつながりをもっている(環境-科学)。また、ルネッサンス期以降、とりわけ絵画においては、自然観察や解剖学の知識を作品に表現したレオナルド・ダ・ビンチ(「科学の表現」)や量子物理学や分子生物学の知識を作品に融合したサルバドール・ダリ(「科学の融合」)にみられるように、科学(その技術)は芸術と結びついてきた(科学-芸術)。人(主体)が、ある時・空間との「つながり」を意識したとき、その時・空間は環境として認識される(「環境認識」)。ジェームズ・タレルは、科学と芸術を結びつけた作品(科学-芸術)において、人に変化する時・空間とのつながりを意識させることで、「環境認識」から環境と作品を結びつけている(環境-科学-芸術)。
著者
高橋 綾 宇田 恵
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.8, pp.21-28, 2009-03-31

この「あかりアートプロジェクト」は、人の内面に響く力を持つ「あかり」をテーマにした作品を制作・展示することにより「人の心を癒す」という効果を病院という環境において得、ひいてはその環境に美術を根付かせるきっかけになれば、という考えから始まった。大学のある群馬県玉村町地域で唯一の内科系病院である角田病院に大学側から提案され、これまで、以下のように、その狙いの下に学生の作品の展示、そのツアー発表が行なわれて来た。・2006年「癒しのあかり展」学生作家(11名12作品)(開催期間:展覧会6月20日〜7月3日/ツアー6月24日) ・2007年「コミュニケーションから生まれたあかり展」学生作家(9名13作品)(開催期間:展覧会7月10日〜30日/ツアー7月28日)この企画の進行に伴い、学生の態度に主体的な変化が生まれただけでなく、健康診断に始まり、次いで病院側が広報誌のデザインを大学へ依頼したことから進展した当病院と大学とのアートを媒介にした共同関係は更に深まることとなった。病院側にも美術を受け入れる自然な姿勢が生み出されたが、この当企画の継続により、病院関係者の自分達の環境美化の可能性とその必然性に対する意識を更に深化させたいと考えている。
著者
本田 悟郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.80-86, 2012-11-24 (Released:2018-04-04)

本論では、今日のアートプロジェクトにみられる人々と芸術作品との関わりについて、理論的背景から考察を加えた。特に作品受容の理論のなかでも作品と鑑賞者の関係を捉えた二名の論述から検討をする。アメリカのジョン・デューイ(John Dewey/1859-1952)とイタリアの美学者ウンベルト・エーコ(Umbert Eco l932-)である。また、日本におけるアートプロジェクトの展開を踏まえ、筆者も協力し2010年に栃木県宇都宮市で開催された比較的小規模なアートプロジェクトを一事例に挙げ、考察の対象とする。本研究では、創造性が表現と鑑賞の両面において発揮されることを前提とするが、特に鑑賞においては、美的経験が作用しコミュニケーションが誘発される。このような特徴は通常の作品鑑賞よりもアートプロジェクトに顕著だと言えよう。本研究は、日常の生活と密接な今日のアートプロジェクトにおいて、作品鑑賞の意味がどのようなものに変貌したかを考察し、芸術作品の鑑賞やアートプロジェクトの創造的な価値を根拠づける理論的考察である。
著者
荒川 忠一 有賀 清一 飯田 誠
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集
巻号頁・発行日
no.1, pp.13-19, 2001-12-25

風車の普及に伴い,景観との適合を含めた新しいデザインの機運が高まってきている。ドイツにおいてはハノーバーのEXPOと時を同じくして3台のアート風車が出現した。コペンハーゲン近<の海上には,美しい弓形に配置された20台の洋上風車が完成した。このように風車を単なるエネルギー機械として捕らえるのではなく,人々のメッセージを伝えるインスタレーションの役割を担わせることが可能となりつつある。本研究は,ヨーロッパ諸国の新しい風車のデザインやその背景を紹介しながら,「ヴァナキュラー風車」の提案を行うものである。つまり,エネルギー経済性の観点から大量に風車が設置される可能性があり,高さ100m近い大型風車が50年後には1都道府県あたり2,000台とも予想される。このような状況において,景観に適合することはもちろん,地域の文化や情報を発信することのできるデザインが必要となる。本来の風車の性能を維持しつつ,豊かなデザイン性を発揮するためには,風車タワーの形状,カラーリング,そして風車の配置などに工夫を凝らすことができる。東北地方および東京を具体的な対象地域として,ヴァナキュラー性を有した風車デザインの具体例を紹介する。
著者
八木 健太郎 竹田 直樹
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.12, pp.85-90, 2013-10-26

これまでのパブリックアートにみられるわが国の都市空間におけるさまざまなアートのあり方と、今日の都市空間において多様な展開を見せているマンガやアニメなどのキャラクターのあり方を包括的に比較し、それぞれの都市空間における役割や存在意義を考察し、明らかにすることが目的である。わが国のパブリックアートは、都市景観の向上を目的として、野外彫刻を中心にスタートした。その後、文化的、教育的な役割に加え、都市の不動産価値の向上や地域の活性化まで、実に多様な役割を担うようになり、その目的は多様化してきた。また、それにともなって都市空間との関係性も、次第に多様になってきている。それに対して、マンガやアニメなどのキャラクターを都市空間に導入される際に期待されている役割は、地域の活性化あるいは集客力のアップという点において共通しており、比較的単純明快である。役割が明快な一方で、都市におけるこうしたキャラクターの存在形態は、集客の核となる施設または巨大な彫像、アプローチを飾り演出する造形物、地域へのアクセスを提供する車両など、複合的なメディア展開をみせている。またその実施主体も、自治体や公共団体、草の根的な市民活動など多様である。都市空間におけるサブカルチャーとしてのマンガやアニメなどのキャラクターは、単に地域の集客力を向上に寄与するという当初の目的を明らかに超えはじめている。サブカルチャーの物語の受容を促すことを通して、地域の歴史や風土・伝統に触れる機会を提供し、ハイカルチャーとしてのパブリックアートと同様に、都市におけるモニュメントとしての特質を獲得している。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-8, 2003-10-22 (Released:2017-10-06)

本論は1970年代から1980年代初頭にかけて試みられた彫刻シンポジウムにおける彫刻余の共同制作に着目したものである。その成果物のいくつかは、彫刻というより造園作品といえるもので、ランドスケープデザインの観点から分析する価値がある。共同制作を支えた思想や手法を明らかにし、その成果について考察を行った。彼ら彫刻家がランドスケープの公共性に着目しつつ、一個人の個性に依存しないアノニマスな性質をもつデザインを目指したこと、複数の参加者の意志を統合するために、長時間をかけたディスカッションを行っていたことなどを明らかにした。これらは、ランドスケープデザインの質について考える上で有用な事実である。
著者
柴田 葵
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.48-56, 2012-11-24 (Released:2018-04-04)

本稿では、「彫刻シンポジウム」(Bildhauersymposion/sculpture symposium)の初期(1959年から1970年まで)の歴史を記述し、シンポジウムの理念と担い手の変遷について論じることを目的とする。彫刻シンポジウムは、冷戦構造下のヨーロッパの政治状況を背景として、1959年ザンクト・マルガレーテン(オーストリア)の石切り場で誕生した芸術活動である。1956年のハンガリー動乱を背景に、58年に彫刻家カール・プラントルが制作したモニュメント「境界石」が、彫刻シンポジウムを生む直接の契機となった。プラントルは、新時代の彫刻のあり方として、「石切り場における芸術」を提唱し、さらには芸術家のエゴイズムを克服しうるユートピア的な共同体を、彫刻シンポジウムの中に見出す。彫刻シンポジウムは、次々と他地域に飛び火し、1960年代には国際的な芸術運動としての様相を呈するに至った。マルガレーテン、フォルマ・ビバ、リンダブルンなどの.主要な彫刻シンポジウムは、彫刻家同士の創造性を触発し、世界各地で新たなシンポジウムを生み出す孵化装置としての役割を果たした。それと同時に1960年代半ばから、彫刻シンポジウムにおける主体と目的に根本的な変容が見られ始めた。作家主導からパトロン(行政・企業など)主導へ、創作プロセスの重視から完成作品の恒久設置に力点が置かれるといった傾向が見られるようになる。シンポジウムの多様化にともなう理念の揺らぎ、シンポジウムそのものへの本質的懐疑など、60年代にはシンポジウムに対するあらゆる批判・議論が噴出することになった。彫刻家たちによる1970年の2つのプロジェクト-都市計画「ステファン広場」と環境造形「日本の溝」は、このような諸問題に対する作家からの応答としてなされたものであった。
著者
近藤 晶
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.39-42, 2013-10-26 (Released:2017-10-06)

筆者はこれまで、Web上でのインタラクティブなコンテンツを制作するため、WebカメラとActionScript3.0を使用してきた。このWebデザイン業務で培った技術や知識を応用し、福井市の地域活性化プロジェクトなどでインタラクティブアート作品の制作・展示を行っている。最初の作品は単純なプログラムであったが、機能の追加・修正を行った結果、Webデザインで使用される技術を用いた制作手法に一定の可能性を確認することが出来た。以上のことから、2011年に行われたシンサカエ・ナイト・ミュージアムと2012年に行われた上味見雪まつり前夜祭の制作研究報告を行う。本論文では二つの作品に使用したプログラムの概要とそれにより可能となった視覚表現について説明すると共に、鑑賞者の行動の変化について報告を行う。
著者
橋本 忠和
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.9-16, 2009

身近な環境を造形物で異化する美術の授業を行おうとした時、活動に同意しない児童が出てきた。これは、環境を異化する必然性が見いだせなかったことが原因と思われた。そこで、本論では、クリスト&ジャンクロードのザ・ゲーツプロジェクトにおける環境を異化する必然性についての分析を手がかりに、児童が主体的に環境を異化する造形活動について考察する。近年、都市・地方を問わず、生活環境の中で造形活動を行う取り組みが盛んに行われている。そこでは、造形活動が環境を異化することで、身近な環境への気づきをもたらし、人間と環境が関わる意味を増幅して引き出していると思われる。しかしながら、ザ・ゲーツプロジェクトが実現に25年を要したように、環境を異化する造形活動は日常生活に制約や心理的不安を与える場合もあり、その活動を行う必然性について住民に説明して理解を得るのに、多くの時間と労力を必要とする場合がある。それは、児童が行う環境を異化する造形活動においても同様と思われる。すなわち、児童が身近な環境を異化する必然性を見いだすことができなければ、主体的な環境への働きかけは行われないと思われる。そこで、まず、「一貫性」、「分かりやすさ」、「複雑性」、「ミステリー」の4つの観点で、ザ・ゲーツプロジェクトにおける環境を異化する必然性について分析した。そして、その分析を手がかりに児童が主体的に環境を異化するために、どのような要素で造形活動を構成すればよいのかについて考察した。さらに、その要素を生かした授業実践例の開発に取り組んだ。
著者
八木 健太郎 竹田 直樹
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-12, 2006

1980年代のアメリカで進んだパブリックアートの変化の過程とその要因を明らかにすることを目的とする。議論の出発点として、初期のパブリックアート導入の枠組みを整理し、近代建築を背景とする巨大な抽象彫刻というアメリカにおける典型的なパブリックアートのイメージが形成された背景を示した。次にそうした作品に対する社会的な議論を分析することでその問題点を整理し、その後の新しい取り組みの基盤と枠組みとして、場所の特つ物理的特性だけでなく社会的特性を考慮する必要性と、作品に対する議論が公共性を獲得する要因となりうることを示した。さらにこうした問題点を解決することを目指して行われた取り組みについて分析した。その結果、パブリックアートが変化した要因として、冷戦時における政治的宣伝という役割を終えたパブリックアートが、社会から新たな公共的な役割を求められるようになったこと、美術作品の自律性に対するアーティストの側の姿勢が変化したことという二つの要因があることを明らかにした。
著者
近藤 晶
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 : 環境芸術学会論文集 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
no.12, pp.39-42, 2013-10-26

筆者はこれまで、Web上でのインタラクティブなコンテンツを制作するため、WebカメラとActionScript3.0を使用してきた。このWebデザイン業務で培った技術や知識を応用し、福井市の地域活性化プロジェクトなどでインタラクティブアート作品の制作・展示を行っている。最初の作品は単純なプログラムであったが、機能の追加・修正を行った結果、Webデザインで使用される技術を用いた制作手法に一定の可能性を確認することが出来た。以上のことから、2011年に行われたシンサカエ・ナイト・ミュージアムと2012年に行われた上味見雪まつり前夜祭の制作研究報告を行う。本論文では二つの作品に使用したプログラムの概要とそれにより可能となった視覚表現について説明すると共に、鑑賞者の行動の変化について報告を行う。