著者
芳賀康朗
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.104-128, 2016-12-31

本研究では,日常生活における失敗行動と空間認知能力との関連性を明らかにするために、失敗行動の経験頻度と空間認知能力の自己評定との相関関係について分析した。大学生を対象とした質問紙調査を実施した結果、「地下街やショッピングセンターで迷う」、「曲がるべき道を間違えて通り過ぎる」、「一緒に買い物をしていた友人や家族を見失う」といった失敗の経験頻度が方向感覚の自己評定(方向感覚の悪さ)と中程度の正の相関を示した。また、「押して開けるドアを引いて開けようとする」、「階段や廊下でつまずく」と「テーブルや机の脚に自分の足の指をぶつける」といった歩行時の失敗と方向感覚の自己評定との間接的な関連も見出された。これらの結果から、空間認知能力は自己定位、経路選択、場所の記憶といった複雑な情報処理のみでなく、不注意や知覚運動協応のミスといった単純なアクションスリップとも関連している可能性が示唆された。
著者
森 順子
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.31-43, 2011

シェイクスピアは『ジョン王』、『リチャード三世』、『コリオレーナス』において未熟な母親を描いている。未熟さはわが子との関係において生じる。いずれも未熟さに対し無自覚に生きた母親たちである。自分のこころを省みることのない母親は、こどものこころを慮ることもできない。しかし、この未熟な母親をこどもは受けとめる。そのこどもの姿をとおして見えてくるものがある。シェイクスピアの視線である。未熟な母親を切り捨てず、一人の人間として見つめる視線である。愚かな生き方をしてしまった人間に対する憐憫のこもった視線である。母子関係の観点から未熟な母親像を考察する。
著者
吉野 敏行
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.21-29, 2012-07-31

循環型社会は物質的な閉鎖系である。リサイクルは天然資源の消費量と廃棄物の排出量を削減して環境資源の保全に有効であるが、他方で、リサイクルの繰り返しは再生資源に不純物を蓄積して物エントロピーを増大させる。再生資源の物エントロピーを低減させるためには、外部環境から低エントロピーのエネルギーを投入し、高エントロピーの排ガス・廃熱を外部環境へ排出しなければならない。したがって、循環型社会が化石燃料などの枯渇性エネルギーに依存しているかぎり、環境保全は限定的である。循環型社会と再生可能エネルギーの大規模利用は、持続可能な社会の建設にとって不可欠の車の両輪である。
著者
坂本 真也
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
no.2, pp.85-96, 2011-11-15

本研究では、スクールカウンセリングにおける教員研修としてPCAGIP法を用いた事例検討の実践から、その有効性や課題について検討することを目的とした。事例検討では、スクールカウンセラーはファシリテーターとして働き、他の参加者メンバーは自由で話しやすい雰囲気の中、討議を行った。本研修では、事例提供者の負担が少ないこと、さまざまな視点から事例Aへの対応を考えられたことなどの特徴が見られた。その結果、(1)スクールカウンセラーと教員間の連携強化やチームで関わる経験になったこと、(2)教員が学級経営や児童とのかかわりに関して予防的に関わっていける可能性を示唆した感想が得られた。また、今後の課題として、PCAGIP法による事例検討のプロセスを詳細に検討していく必要性が見出された。The purpose of this study is to examine efficiency of teacher training in school counseling. In this case conference, all participants discussed in case A were easy to talk to. The school counselor was the facilitator in the group work. The characteristics of this training is to reduce ploblems for a member who presented case A and other group members talked about case A from various points of view. The conclusions are as follows: (1) an experience of problem solving team between teachers and school counselor (2) this kind of teacher training will be a way of preventive approach in school counseling or educational counseling. The teacher training is based on PCAGIP method as a new style group work and it needs further practice and discussion.
著者
菅原 布寿史
出版者
河原学園 人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.117-142, 2011

徳川・五島本の構図は、絵具が剥落・変色した現状では形式的で静的なものと見られてきた。しかし、現在は最新の復元模本を参照することにより、当時の絵師がより優れた物語の視覚化を試行錯誤して生み出したダイナミックな構図を読み取ることができる。本稿では、徳川・五島本の内建造物が描かれた十八作品を分析。結果として、二分割した画面に主要なモチーフを配置することで物語内容を視覚的に表現した〈対置的スタティクス〉、様々な動勢が影響し合って動的な運動感で画面内を満たし、ドラマティックなインパクトが感性に訴えかける〈有機的ダイナミクス〉、そして両者の中間的な構図に分類した。そして、〈有機的ダイナミクス〉の構図である〈柏木グループ〉八作品の明度による視覚的刺激の強弱を基準にしたダイアグラムを作成し、ダイナミクスのメカニズムを分析する。
著者
菅原 布寿史
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.74-96, 2011-03-31

本稿は、『信貴山縁起絵巻』第一巻「飛倉の巻」の時間分析に映画編集の手法を転用することによって、個々のイメージではなくイメージの連関から生成する観念の問題に目を向け、この絵巻の特異な表現を明らかにしようという試みである。・一章では、時間分析の障害となっている第一巻「飛倉の巻」冒頭の欠落部分の復元をおこなう。・二章では、〈驚きと恐怖〉の観念を引き起こす「飛倉の巻」第一場面の時間分析を試みる。・三章では、第一場面から第二場面へと続く画面上の、視線の流れと心理的視野の変化を追う。・四章では、編集上の省略も含めた第五場面における鮮やかな〈奇跡〉の演出を時間分析する。・五章では、動画的イメージによって構成された、第六場面のダイナミックな時空表現のくスペクタクル〉を分析する。