著者
西村 貴裕
出版者
人間環境大学
雑誌
人間環境論集 (ISSN:13473395)
巻号頁・発行日
no.5, pp.55-69, 2006

1933年の政権獲得後、ナチス・ドイツは次々と動物保護、自然保護に関する立法を実現していった。本稿はそれらの法律、すなわち「動物の屠殺に関する法律」、「動物保護法」、「帝国森林荒廃防止法」、「森林の種に関する法律」、「帝国自然保護法」といった法律の成立過程、内容を分析する。「動物の屠殺に関する法律」、「森林の種に関する法律」がナチスの病理を表現するものである一方、「動物保護法」、「帝国自然保護法」は、当時の水準からすれば極めて進歩的な法律であった。これらの立法過程には帝国森林監督官たるヘルマン・ゲーリングが深く関与した。彼の意図は、動物・自然保護を促進させることよりも、むしろ広範な社会層の支持を取り込むことにあった。こうした立法事例は、動物保護・自然保護と全体主義思想との関連、自然思想と全体主義思想との親和性について再検討する必要があることを、我々に教えている。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば = Mind and language (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-30, 2002-03-31

2001年9月11日の惨事に関わるブッシュ大統領の演説のフレーム分析を行った。とくに戦争に関する演説にしばしば活性化する二項対立フレームがいつ確立し、どのように変容したかを明らかにした。早くも惨事の夜に受け身型二項対立フレームが確立し、翌日にはさまざまな再定義が行われ、攻撃型二項対立フレームも確立した。また対立する二項には抽象化・拡大化・具体化・微細化等のさまざまな操作が加えられ、世界はさまざまなレベルで二分され、その対立が際だたされた。このテクストの分析から見る限り、惨事の翌日には軍事行動を決意したことがうかがえる。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-26, 2009-03-31

「ある程度閉鎖性をもった、人に安らぎを与えてくれる物理的・意味論的空間」を「窪地」と定義し、宮崎駿が製作した8本のアニメ映画にみられる「窪地」の意味を考察し、その結果、つぎの10の意味を析出した。1<子宮>、2<生命(死と再生、治癒・治療)>、3<聖域>、4<シェルター>、5<休息>、6<暖かさ>、7<ふるさと・基地>、8<一体化>、9<自己回帰>、10<秘密>。さらにこれらの意味を考察して、宮崎アニメの「窪地」は、水と樹木と深く関わっていることを明らかにした。「窪地」と水と樹木は、ユング心理学では、母親元型の形態であるとされている。宮崎は、それらのアニメ映画で、直接的には「母」を描いていないが、象徴的に描いていると考えられる。この"矛盾"にこそ、宮崎アニメの本質があるのかもしれない。そして、その「母なる」風景とそこに点在する「窪地」は、私たちの存在とも深く関わっている。
著者
佐野 亘
出版者
人間環境大学
雑誌
人間環境論集 (ISSN:13473395)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.35-53, 2006-03-31

人類絶滅が真剣な学問的議論の対象となることは少ないが、環境問題が深刻化している昨今、その規範的意味について検討することが必要である。本稿では、人類絶滅を許容ないし肯定する議論をいくつか紹介し、それぞれについて簡単な検討をくわえる。人類絶滅を許容・肯定する議論は、次の三つに分類することができる。一つ目は、人類以外にも価値を有する存在があるとする議論である。本稿では特に環境(自然・生態系・地球など)それ自体に、人類と同等の(あるいはそれ以上の)価値を認めるディープ・エコロジーの議論をとりあげる。二つ目は、人類にとっては、単なる存続以上に重要な価値が存在するとする議論である。本稿では、人類の体験する悲惨は人類の存続以上に重視されるべきとする議論と、人間性を失ったならば人類が存続する価値はないとする議論を紹介する。最後に三つ目は、人類の存続は価値的に中立であって、よいとも悪いともいえないとする議論である。本稿では、個人にしか価値を認めないリベラリズム的個人主義の議論と、人類も遅かれ早かれ絶滅するのだからいつ絶滅してもよいとするニヒリズムの議論をとりあげる。以上の検討を通じて、われわれは、人間性や人間存在の独自性について考究する必要があることが確認できた。
著者
Mclellan Gerald
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 電子版 (ISSN:21858373)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.25-37, 2013-07-31

この論文では、援助交際について研究していきたい。「援助交際」とは、90年代後半から21世紀の初頭にかけて流行ったことばで、「報酬を伴ったデート」や「女子学生の売春」と英語で訳されてきた。援助交際とは一体何か、また、その背景にあるモラルや社会的問題を検討する。マスメディアや技術革新の役割を検証しながら、日本社会における女性の役割とポルノグラフィーを分析したい。
著者
石塚 倫子
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies = Journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
no.1, pp.65-75, 1998-03-31

AD43年、ローマ人のブリタニア征服以来、都市として着実に発展してきたロンドンは、16世紀末には世界に誇るメトロポリスとなっていた。シティと呼ばれる市壁の内部はイギリス経済の中枢として機能し、一方、市壁の外側の隣接区域には、大都市の必要悪とも言える施設(酒場、売春宿、劇場、精神病院、らい病院、処刑場、牢獄など)が寄り集まっていた。特にテムズ川南岸のサザックは「リバティ」と呼ばれ、複雑な権力関係が錯綜していたため逆に無法地帯と化していた。サザックにはシティからはじき出された浮浪者、犯罪人、失業者、得体のしれない外国人等が集まり、歓楽と危険、解放と無秩序が入り乱れた特殊な世界となっていた。しかし、都市ロンドンはこの周縁の地に、穢れたもの、忌まわしいものを引き受けてもらうことで、内部の秩序を保っていたのである。シティとサザック-この二種類の地域は文化における中心と周縁の関係に相当し、互いに緊張関係を保ちながら都市ロンドンを支えていた。特に大衆劇場は周縁に位置し、当時の都市文化を裏側から照射する場でもあった。ここでは、シェイクスピア劇を中心に大衆劇場の周縁性と意義について論じてみた。
著者
川口 雅昭
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-22, 1999-06-20

吉田松陰は、安政6年(1859)10月27日朝、死罪の申し渡しを受け、同日、刑死する。現在、判決を聞いた際の松陰の態度については、騒動しく、「実に無念の顔色」を見せたとする説と、神色自若としていたとする、相反する記述が残っている。しかし、これまで定説とされているのは後者の説である。小論では両説成立の経緯などを探り、定説誕生の背景及びその問題点を論考した。そして、1、定説は当時長州藩江戸留守居役であった小幡高政が直接見聞したことを娘三香に語り、それを又聞きした田中真治が昭和初期に記録した可能性が高いこと。2、田中は世古格太郎の「唱義聞見録」をかなり意識して記述していること。3、また、世古は安政の大獄に連座したという点で松陰の同志であり、松陰を悪し様にいう動機が見あたらないこと。4、『全集』の編集委員であった玖村敏雄等は両説を精緻に検討した形跡がないことなどを解明した。
著者
石塚 倫子
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.65-75, 1998-03-31

AD43年、ローマ人のブリタニア征服以来、都市として着実に発展してきたロンドンは、16世紀末には世界に誇るメトロポリスとなっていた。シティと呼ばれる市壁の内部はイギリス経済の中枢として機能し、一方、市壁の外側の隣接区域には、大都市の必要悪とも言える施設(酒場、売春宿、劇場、精神病院、らい病院、処刑場、牢獄など)が寄り集まっていた。特にテムズ川南岸のサザックは「リバティ」と呼ばれ、複雑な権力関係が錯綜していたため逆に無法地帯と化していた。サザックにはシティからはじき出された浮浪者、犯罪人、失業者、得体のしれない外国人等が集まり、歓楽と危険、解放と無秩序が入り乱れた特殊な世界となっていた。しかし、都市ロンドンはこの周縁の地に、穢れたもの、忌まわしいものを引き受けてもらうことで、内部の秩序を保っていたのである。シティとサザック-この二種類の地域は文化における中心と周縁の関係に相当し、互いに緊張関係を保ちながら都市ロンドンを支えていた。特に大衆劇場は周縁に位置し、当時の都市文化を裏側から照射する場でもあった。ここでは、シェイクスピア劇を中心に大衆劇場の周縁性と意義について論じてみた。
著者
伊東 宏
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.11-26, 1998-07-31

徐福とその一行は、紀元前3世紀(日本における弥生時代の初め)、九州から東北までの日本の至る所に渡来したと考えられる。それらの伝承地には、ハタ・フク・ホウライ地名とか、ハタ氏とか、ハタ神社等が見られる。また、伝来の技術・習俗も見られる。彼等は、日本文化の起源でもある弥生文化をもたらしたと考えられるのである。その文化とは、稲作・金属器製造・機織・焼き物・捕鯨等である。特に、子供たちが金屋子神へのいけにえ(中国春秋戦国時代の製鉄習俗)とされていたことが、浦島・竜宮伝説から推測される。また、羽衣・七夕の伝承が、機織の渡来を立証しているのである。これらの伝説は、根底的に蓬莱信仰(不老不死の異郷を憧れる)に基いている。
著者
伊東 宏
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.33-45, 1998-03-31

本学論集第2号(95年3月刊)の本論文前編で、私は、秦の徐福は『史記』によっても明らかなように実在し、その故郷は中国山東半島の北岸と南岸の二説に分れ、出航地も複数あることを述べた。そして、山東半島における研究者は、徐福は韓国経由渡航したであろうと言っていた。特に済州島では徐福に関する伝承があるので、それを確かめるため、95年3月済州島へ出かけた。そこで、次のようなことが分かった。済州島では、徐福がハルラ山(蓬莱山)に薬草を求めにやって来たが得られず、この土地を離れ日本に行った。のち、3人の男子を済州島へ置き去りにしたことに気付き、3人の女子を婚姻のため済州島に送ったという。この始祖伝説を示す三姓穴が、そして徐福渡来の伝承を示す地名が島内にある。日本側では、北九州をはじめ、20か所以上に及ぶ徐福上陸伝承地がある。なかでも中央日本には、紀元前3世紀渡来の徐福上陸伝承地である富士山麓や熊野・熱田など代表的な三蓬莱山があり、また、紀元後5世紀近畿地方へ渡来した秦氏がいる。日本では、共に秦氏と呼ばれ、彼らのルーツは始皇帝となると考えられるのである。
著者
川口 雅昭
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-9, 2003-03-20

安政元年三月、吉田松陰はペリー刺殺を目的とした下田事件をおこし失敗する。しかし、その松陰が五年後には、「通信通市は天地の常道に候」と、一八〇度ともいうべき変容を見せるのである。その主因の一つは、和親条約締結以来、我国の属国化という危機状態は進捗しているという焦燥感であり、他は「西洋各国にては世界中一族に相成り度き由」とか、「遮て外と交を結ばざる国は取除かる由。取除きには干戈に非ざれば得ざるは固よりなり。(中略)二百年前葡萄牙・西斯班人御放逐なされたる頃と只今とは外国の風習大いに異なり」などという、国際社会の的確な認識による、国際感覚の成長であった。その間、彼は対話による日米間の懸案解決策さえ提案している。吉田松陰は、現在においても、幕末期における日本型原理主義の代表の一人のような先入観で語られることが多い。しかし、彼は上述したような柔軟な国際感覚を持ち合わせていたのである。今後、このような観点も念頭において松陰研究を進める必要があると考える。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 電子版 (ISSN:21858373)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-22, 2015-03-31

映画「男はつらいよ」シリーズの劇中において映画のタイトルが表示されるときの口上、「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」および寅さんが生きている社会・世界をN. フェアクラフの批判的ディスコース分析と社会分析を用いて考察する。批判的ディスコース分析から、寅さんの口上には多くの矛盾が認められ、彼が両義的人間であるという結論に至った。また、社会分析によっても彼が生きている世界は両義的世界であることが判明した。その結果、次の2 点が導かれる。(1)この映画では矛盾がさまざまな局面に存在することが、緻密にそして整合的に製作されている、(2)フェアクラフ理論は、社会とことばの分析において、今回のケースでは有効であった。寅さんおよび彼が生きている世界と同様に、現実の世界も矛盾や両義性に満ちていている。いっぽう、フェアクラフ理論の基本は、世界の整合性に基づいている。では、何故フェアクラフ理論が有効であったのだろうか。それは、整合性に基礎を置いている理論だからこそ、矛盾や両義性を検出しやすいのである
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-33, 2005-03-31

『ル・シッド』はコルネイユの代表作であるばかりでなく、フランス演劇を代表する作品として知られている。作品の書かれた17世紀前半は、フランスが混乱期から絶対王政へと移行する時期であり、社会に対する影響力の強かった演劇の世界でも、当然、作品は時代の雰囲気を反映するものとなった。『ル・シッド』は現代では恋愛劇ととらえられることもあるが、当時のパリの観客にとっては、スペイン軍の侵略を撃破する英雄ととらえられたはずである。また、主人公の一人シメーヌも女性でありながら、男性的性格が強く描き出され、独特の魅力となっている。
著者
白井 克佳 中里 信立 斉藤 実 鍋倉 賢治 松田 光生
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 : 人間環境学研究所研究報告 : journal of Institute for Human and Environmental Studies = Journal of Institute for Human and Environmental Studies (ISSN:13434780)
巻号頁・発行日
no.3, pp.69-77, 1999-06-20

本研究は夏期合宿における競技選手のコンディションの変動を調査した。対象は男子陸上長距離選手8名とし、対象の起床時、朝練習時心拍数、主観的体調、尿(量、濃度)、及び走行距離と、練習を行った環境の計測を行った。その結果、起床時、朝練習時心拍数と主観的体調が、合宿が進行するに従い、低下することが観察された。起床時、朝練習時心拍数の低下は合宿によるトレーニング効果によるものか、合宿の環境に慣れたためか、今回の検討では明らかにすることができなかった。主観的体調の低下は先行研究では心拍数の増加とともに観察されたが、今回はそれと異なった結果となった。合宿中に脱水症状を起こし、練習を中止した選手がいたが、この選手の当日の尿量は前日までと比べ、著しく高値であった。このことは尿量の観察がコンディションを把握する上で有用であり、熱中症などの事故を未然に防ぐ手がかりとなる可能性があることを示している。To investigate variations of conditions in the summer training camp, we examined 8 long-distance runners. Heart rate (HR), subjective condition, value of training and urine were analyzed for 14 days. HR decreased day by day, during summer training camp. This result may indicate the effect, the training had on the runners. One day, one subject showed a significantly high value of urine, and he retired training due to dehydration. Urine analyzation may be a useful indicator of physical condition.
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-42, 2010-03-31

トマス・ワイアットは、ヘンリー八世に仕える詩人として、ペトラルカ恋愛詩の翻訳から出発した。彼は、権力構造の生む残酷な不条理を目撃し、宮廷の女たちの虚飾、不実を体験的に知り、そうした現実認識を、運命の冷酷さ、ペトラルカ的聖女とは対極の不実な女性像として、彼の恋愛詩に表現した。彼はまた、外交使節として説得、欺瞞、韜晦の語法を身につけ、宮廷社交界における求愛の言語を学び、その繊細な言語感覚により、イタリア・ソネットの形式と英語の自然な音調を融合させ、英語ソネットの原型を確立した。ワイアットの内省的な詩には、人間性の洗練と理性的な両性関係を指向するプロテスタント・ヒューマニズムの倫理性が見られる。
著者
吉野敏行
出版者
人間環境大学
雑誌
人間と環境 (ISSN:21858365)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-73, 2016-12-31

A(I 人工知能)の急速な発展が今後の経済社会にどのような影響を及ぼすか、特に資本主義社会への影響とポスト資本主義社会への展望について考察した。資本主義社会は本来的に資産家と労働者との所得格差を拡大する仕組み(ピケティのr > g)をもっているが、先進諸国では、すでに利子率と経済成長率がゼロ水準となり、利潤率も2%以下に低下しつつある。さらにAI が人間の知能を凌駕する「シンギュラリティ」までに、労働力人口の5 割から最大9 割がAI と労働代替すると予測され、資本主義社会はすでに末期状態にある。ポスト資本主義社会は「20 世紀の社会主義社会」とは異なる「理想の社会主義社会」である。基本的人権が保障され、ベーシックインカムが所得原則となり、AI による最適な計画経済が実現される経済成長率ゼロの「定常世界」である。AI は資本主義の終焉と真正社会主義社会を実現する物質的・技術的基盤である。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-14, 2010-03-31

宮崎アニメの代表的な9作品を構造的に分析し、どのようなく世界>が制作されているかを明らかにした。その結果、 6つの特徴が得られた(1)「基準牡界」の設定が一作ごとに異なっている。(2)各作品において、基本的には、<現実世界>と<異世界>が制作されている。しかし、それらの<世界>の様相はさまざまで、一作ごとに異なっている。(3)さまざまな<世界>の制作ばかりでなく、<世界>同士の関係も複雑である。(4)さまざまな世界の制作が可能になったのは、魔法、異類、空飛ぶ機械等の不思議な事物が、「基準」として設定されているためであると考えられる。(5)二つの<世界>が対立的な場合には、しばしば、仲介者・仲裁者が登場する。(6)宮崎は、当然視されている分類体系に疑問符を投げかけている。
著者
神谷 昇司
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-11, 2009-03-31

平成十七年一年間の柏露軒茶会記の内、先回は風炉の時期である五月から十月までの道具組を記載しました。今回は十一月と十二月を取り上げます。十一月は炉の正月、炉開き・茶壷の口を解く口切の時期です。茶摘みは二月四日の立春から数えて八十八夜(五月二日)くらいから準備をして五月十日ころから始まります、抹茶は「藁下十日、簀十日」といって、茶摘みの頃から逆算して、その十日くらい前に藁をのせて、さらに十日ほど前には、茶畑に組まれた足場に簀を拡げておくのが標準的段取りです。摘み取られた生葉は蒸して乾燥して「荒茶」となる。荒茶を「茶撰り」にかけて「碾茶」ができる。碾茶は茶壷の中に半斤の紙袋に収められた数種類の濃茶(夫々茶銘を記す)と周りに薄茶を詰めて濃茶が湿気ないように包み込んで暗冷所に一夏貯蔵される。秋まで寝かせると熟成されて旨みを増します。いわゆる「口切」を迎える頃にもつとも適した風味になるわけです。この十一月に父八十八歳、母八十歳、合わせて百六十八歳の「いろは茶会」を催しました。また十二月の茶会記は、利休居士の孫、元伯宗旦の命日にあたる十二月十九日に毎年厳修する「遠忌茶会」を取り上げました。それぞれの亭主の思い入れを感じていただければ幸いです。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-46, 2008-03-31

アレクサンドル・デュマの『三銃士』は19位紀フランスで書かれた小説の中でも人気の高いものの一つである。当時新たこ誕生したこの新開連載小説は、ダルダニヤンとその仲間たちの冒険とともに、フランスの歴史を再発見しようとした19牡紀の人々にとって時代の嗜好にあった作品であった。本稿は『三銃士』の文体を数量的に分析することでこの作品の劇的特徴と劇作家であったデュマの書いた小説の魅力を明らかにしようとするものである。