著者
沈 燕 宗 暁蓮
出版者
日常と文化研究会
雑誌
日常と文化 (ISSN:21893489)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-16, 2022 (Released:2022-03-22)

老人の死亡観念の研究は一般に老人を他者と見なし、またその死の観念の異質性、生成性に着 目するものが少ない状況にある。本論考では民俗学の日常生活の視点により、老人ホームの老人 の主体性、能動性に立脚し、彼らが日常生活の中で如何に死を処理し、まなざし、受け入れるの かを具体的に注目する。その結果、本研究は老人ホームという空間において、老人は放置された 死に向き合っていることを明らかにする。具体的に言えば、第一に、ホーム従業者が老人保護の ために死を隠蔽し放置するが、彼らの死への慎重な態度と老人たちによる死への日常的な態度が 図らずも死の放置を生み出している。第二に、老人たちが死を日常的なものとみなす観念は、身 近な親族友人たちの逝去と、関連する国家政策の影響に由来する。これらの結果、老人たちは積 極的・消極的態度を生み出すこととなるが、最も注目すべきは、この観念の背後には死後の世界 への虚無的な認識があり、これは実際には、現代社会全体の死の放置を反映していることである。