著者
神谷 達夫 北口 千華
雑誌
福知山公立大学研究紀要 (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.47-63, 2023-03-31

音楽の配布形態には、いわゆるアナログレコードやCDなどのメディアが存在する。インターネット上等での評判によると、同一の楽曲であっても、配布形態やデジタルリマスターと呼ばれる修正により、異なった感じを受けるとされていることがある。ただし、定量化された分析は少なく、「このような感じがする」という定性的な意見が散見される。本論文は、同一の楽曲がアナログレコードやCDによって違いがあるのかを定量的に調査することを目的としている。対象としたのは、イングヴェイ・マルムスティーンの曲である。この曲は、各国で販売されているアナログレコードやCDを容易に入手可能であり、インターネット上でその差が議論されていたため、研究の題材とした。特徴の抽出には、一定間隔毎のスペクトルを図に表現し、画像の類似度で評価する方法を採用した。類似度判定結果は、定性的な楽曲の判定と一致していることが確認できた。
雑誌
福知山公立大学研究紀要 (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.31-74, 2017-03-31

この論文の目的は,「サトウの切り餅」や「サトウのごはん」を製造販売しているサトウ食品工業がどのように企業成長してきたのかを整理し,2000 年から2016 年までの17 年間,どのようにファイナンスしてきたのか,その財務政策を考察することにある.サトウ食品工業は「サトウの切り餅」で培った製造技術を「サトウのごはん」へと転用して成長した.ファイナンスはもっぱら銀行借入に依存し,借入先の銀行を多様化し,1 行当たりの借入比率を引き下げている.その調整がメインバンクを定めないという意図に基づいているとすると,逃げ足の早い資金に依存するロールオーバー・リスクを抱えているおそれがある.キャッシュ・フローが安定しないために,短期借入金の増減が大きいからである.キャッシュ・フローが安定しない理由は在庫管理にある.また,同族企業であるサトウ食品は,執行役員制度をどのように活用するのか,どのように経営陣を構成するのかも重要な経営課題である.この論文では新潟県の包装餅業界を揺るがせ,競争環境を変化させる事態に発展した「切り餅訴訟」についても詳述している.
著者
川島 典子 福島 慎太郎
雑誌
福知山公立大学研究紀要 (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.19-30, 2022-03-31

本研究の目的は、人口減少社会において、人材も社会資源も不足するであろう中山間地域などで、AI に地域経営を代行させる場合、どのようなソーシャル・キャピタル(以下、SC)の下位概念が、「AI パーセプション」(AI の受けいれやすさ)が高いのかを宮津市の無作為抽出した20 歳以上の市民500 名を対象として郵送法で行った「AI の意識調査」の結果を分析して明らかにすることにある。調査の結果は、「ICT リテラシー」、「AI パーセプション」、「SC」に関する設問群に対して因子分析を行い、因子分析によって得たパターン得点を用いて「AI パーセプション」に関する7 つの因子を被説明変数とし、「ICT リテラシー」5 因子および「SC」3 因子を説明変数とした重回帰分析(OLS)を行った。分析の結果、「認知的SC」の「互酬性認知」と「AI パーセプション」に正の関連が認められた。「構造的SC」に関しては、個人的・私的な側面では「AI パーセプション」と正の関連があったが、集団的・公的な側面では「AI パーセプション」と負の関連が確認された。都市部で行った稲葉らの先行調査(稲葉2019)では、「AI パーセプション」は「認知的SC」が高いほど肯定的で、農村部を対象とした本研究の結果と変わらなかった。
著者
齋藤 達弘 Tatsuhiro Saito
出版者
福知山公立大学
雑誌
福知山公立大学研究紀要 = Fukuchiyama journal of research : journal of the University of Fukuchiyama (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.93-147, 2020

この論文の目的は,新潟市に本社を置く株式会社セイヒョーが1989 年から2019 年までの31 年間,どのように企業成長をファイナンスしてきたのかを検証し,その財務政策を考察することにある.セイヒョーは,主たる事業を冷菓(アイスクリーム・氷菓),和菓子(笹だんご・ちまき),冷凍倉庫における保管とする,創業100 周年を迎えた老舗企業で,70 年を超える上場の歴史を持つ企業ではあるが,売上高は40 億円ほど,従業員は80 人ほどの中堅企業である.取引先の代表社員で,大株主でもあった村山勤が,1993 年から12 年もの長い間,社長を務めた後,2006 年,OEM 契約先(明治乳業)出身の菅豊文を社長として迎え入れて退任した.村山勤は経営の停滞を招いた.菅豊文は停滞した経営を改革しようと精力的に取り組んだが,業績はより一層,悪化し,堅持してきた無借金経営を断念し,負債を残してわずか2 年で引責辞任する.後任の社長には生え抜きのベテラン,山本勝が就くものの,経営状況は変わらず,3 年で引責辞任する.代わって取締役2 年目の若手,飯塚周一が社長に就く.しかし,それでも経営状況は好転せず,2012 年6 月,株価低迷から時価基準に抵触し,上場廃止の危機に瀕することになる.自社株買いにより株価を引き上げ,何とか上場を維持した.その後,株価は安定し,上場廃止の危機は遠のいたように見えるのだが,新潟におけるセイヒョーのような上場中堅企業が上場し続けることの意義を再考する時期が来ている.
著者
張 明軍 Mingjun Zhang
出版者
福知山公立大学
雑誌
福知山公立大学研究紀要 = Fukuchiyama journal of research : journal of the University of Fukuchiyama (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
no.3, pp.151-164, 2020-03

本稿は外国人観光客の急増、地域過疎の深刻化という現状において、地域伝統文化の保護と伝承をめぐって、必要な取り組みについて、論述を展開した。無形文化財の価値が有している妖怪文化に焦点を与えて、その保存と継承を目指して、外国人観光客の誘致に妖怪文化を活用するための知見を深める必要があると考え、妖怪文化の代表である酒吞童子伝説を生かした地域活性化の事例を取り上げ、妖怪文化に対して、日本側、中国側、韓国側の概念、イメージ、特徴などの比較を実施した。比較を通じて、妖怪文化を生かしたインバウンド観光誘致の取り組みの可能性と注意点を解明し、妖怪文化の創意工夫について考察し、提言を行った。酒吞童子伝説によるまちづくりを次世代に引渡すためには、酒吞童子伝説の面白さを次世代に理解させること、あるいは、次世代に合わせて、新たな酒吞童子伝説を創出することが要求されている。新たな酒吞童子に関心を持つ現代人が増え、「新酒吞童子ブーム」が引き起こせれば、アニメの聖地巡礼のように、自然にインバウンド観光の誘致や定着が実現できると考えられる。
著者
矢口 芳生
雑誌
福知山公立大学研究紀要 (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
no.1, pp.5-49, 2018-03-31

ここ数年、「地域経営」や「地域経営学」という用語は広く使われ、一般化してきている。厳密に使われているわけでもない。「地域再生」や「地方創生」という政策課題が広く社会化する動きと軌を一にしている。政府も様々な局面において「地域経営」の視点を強調し、これに関係する学会の動きも活発化している。既存大学においても、2016 年度から地域創生・再生、地域経営に関係する学部として再編する動きが目立った。たとえば、地域デザイン科学部(宇都宮大学)、国際地域学部(福井大学)、芸術地域デザイン学部(佐賀大学)、地域資源創成学部(宮崎大学)がある。高知大学は2015 年度に「地域協働学部」を新設した。福知山公立大学は、「地域経営学部」をもつ全国初の大学として2016 年4 月に開学した。今や「地域経営」や「地域経営学」はあまりに多種多様に使用され、混乱さえ感じられる。未だに確定的な定義はない。本稿では、「地域経営」や「地域経営学」の定義に関し、一定の整理を行うことを目的とする。第一に、「地域経営」等の用語が頻繁に使用されるようになった2000 年以降の動向と、地域活性化論議が活発化した社会的な背景を明らかにすることである。第二に、その用語を提起した政府機関および関係組織や学界および研究者の動向と、提起した内容を整理する。本稿で扱う「地域経営」や「地域経営学」に関係する組織および内容等は、次の3 つの分野である。①関係省庁:地方分権、地域再生や地方創生、人口減少・超高齢社会等を問題にする内閣府、総務省、国土交通省等の関係省庁、また、政府に関係する民間組織、地方自治体等であり、これら組織が発信する地域経営・地域経営学。②学界:日本学術会議経営学委員会「地域経営学の研究・教育のあり方検討分科会」の見解、また青森公立大学発の地域経営学会が発信する地域経営・地域経営学、並びに地域活性化の問題を扱う地域活性学会における地域経営・地域経営学。③研究者個人:地域経営・地域経営学に関係する図書・論文のなかで研究者個人が提起・展開する地域経営・地域経営学。これら分野における議論を整理するためには、一定のルールが必要である。本稿では、関係組織や学界並びに関係図書等における「地域経営学」の定義(対象・課題と方法等)、発生・定着の経緯と背景、学術・科学上の位置づけ、各分野における到達点に関して整理する。続いて、「地域経営学」の今日的意義および今後果たすべき役割を明らかにしつつ、「地域経営学」の定義の吟味を行う必要がある。定義、意義や役割が明確になれば、大学における教育研究のあり方、また地域社会への貢献のあり方にも大きな影響を与えるであろう。この課題は、最終章の拙稿に譲る。
著者
齋藤 達弘 Tatsuhiro Saito
出版者
福知山公立大学
雑誌
福知山公立大学研究紀要 = Fukuchiyama journal of research : journal of the University of Fukuchiyama (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.29-55, 2019

この論文の目的は,新潟県長岡市に本社を置く岩塚製菓株式会社(以下,岩塚製菓)が,1990 年から2018 年までの29 年間,どのように企業成長をファイナンスしてきたのかを検証し,その財務政策を考察することにある.岩塚製菓が資産として保有する中國旺旺控股有限公司(Want Want ChinaHoldings Ltd.)の株式時価評価は,2014 年には900 億円を超え,岩塚製菓の株式時価総額のおよそ3 倍になった.しかし,それは必ずしも財務政策の結果とはいえない.その倍率は2018 年には2 倍弱になっているが,資産として保有する株式の時価総額が株式を保有する企業の時価総額よりも大きいという上場企業として異常な状態にあることに変わりはない.中國旺旺控股有限公司の株式は,その一部を売却することにより利益とキャッシュ・フローを得る手段になっている.岩塚製菓の市場評価が中國旺旺控股有限公司の株式評価に大きく左右される異常な状態を解消する手段の一つはMBO(Management Buyout)による非公開化であると考える.
著者
矢口 芳生
雑誌
福知山公立大学研究紀要 (ISSN:24327662)
巻号頁・発行日
no.1, pp.5-49, 2018-03-31

ここ数年、「地域経営」や「地域経営学」という用語は広く使われ、一般化してきている。厳密に使われているわけでもない。「地域再生」や「地方創生」という政策課題が広く社会化する動きと軌を一にしている。政府も様々な局面において「地域経営」の視点を強調し、これに関係する学会の動きも活発化している。既存大学においても、2016 年度から地域創生・再生、地域経営に関係する学部として再編する動きが目立った。たとえば、地域デザイン科学部(宇都宮大学)、国際地域学部(福井大学)、芸術地域デザイン学部(佐賀大学)、地域資源創成学部(宮崎大学)がある。高知大学は2015 年度に「地域協働学部」を新設した。福知山公立大学は、「地域経営学部」をもつ全国初の大学として2016 年4 月に開学した。今や「地域経営」や「地域経営学」はあまりに多種多様に使用され、混乱さえ感じられる。未だに確定的な定義はない。本稿では、「地域経営」や「地域経営学」の定義に関し、一定の整理を行うことを目的とする。第一に、「地域経営」等の用語が頻繁に使用されるようになった2000 年以降の動向と、地域活性化論議が活発化した社会的な背景を明らかにすることである。第二に、その用語を提起した政府機関および関係組織や学界および研究者の動向と、提起した内容を整理する。本稿で扱う「地域経営」や「地域経営学」に関係する組織および内容等は、次の3 つの分野である。①関係省庁:地方分権、地域再生や地方創生、人口減少・超高齢社会等を問題にする内閣府、総務省、国土交通省等の関係省庁、また、政府に関係する民間組織、地方自治体等であり、これら組織が発信する地域経営・地域経営学。②学界:日本学術会議経営学委員会「地域経営学の研究・教育のあり方検討分科会」の見解、また青森公立大学発の地域経営学会が発信する地域経営・地域経営学、並びに地域活性化の問題を扱う地域活性学会における地域経営・地域経営学。③研究者個人:地域経営・地域経営学に関係する図書・論文のなかで研究者個人が提起・展開する地域経営・地域経営学。これら分野における議論を整理するためには、一定のルールが必要である。本稿では、関係組織や学界並びに関係図書等における「地域経営学」の定義(対象・課題と方法等)、発生・定着の経緯と背景、学術・科学上の位置づけ、各分野における到達点に関して整理する。続いて、「地域経営学」の今日的意義および今後果たすべき役割を明らかにしつつ、「地域経営学」の定義の吟味を行う必要がある。定義、意義や役割が明確になれば、大学における教育研究のあり方、また地域社会への貢献のあり方にも大きな影響を与えるであろう。この課題は、最終章の拙稿に譲る。