著者
川本 茉莉
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAワーキングペーパー (ISSN:27582183)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-24, 2022-04-26 (Released:2022-10-19)

政策に関心を持つ人々の意見を集約し、それを踏まえた政策ビジョンを構築するため、NIRA総研では、経済・社会に関する4つのテーマについての調査を実施した。本稿では、そのうちの1つである「財政赤字と国債発行」に関して報告する。今回の調査では、財政赤字について心配ないと考えているのか、それとも危機的水準だと考えているのか、その理由と共にたずねた。またこの議題に関する専門家の論考を読み、その論考のうちどの論点を参考に、人々の考えがどのように変化するかを検証した。調査の結果、政府債務に対し危機意識を持っている人は少なくないが、それは反対の立場の意見を読むことにより揺らぎやすいものであることが分かった。また財政赤字に対する考え方により、専門家の論考のうち参考とする論点が異なっており、財政赤字を心配していない人は財政赤字を楽観視する論点を、危機的と感じている人は財政規律を重視する論点を選んでいる。自由記述回答の内容からは、専門家の論考が人々の考えに影響を与えており、専門家の論考を読み考える熟慮に一定の効果があることが分かった。
著者
谷口 将紀 大森 翔子
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAワーキングペーパー (ISSN:27582183)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-17, 2022-06-07 (Released:2022-10-21)

社会調査の手法は、人々の生活様式、社会情勢の変化に合わせて多様化してきた。特にインターネット上で回答を行うインターネット調査の登場は、その利便さによって社会調査のスタンダードな方法を変えつつある。本稿では、社会調査における投票率(投票したかどうか)を取り上げ、インターネット調査において投票率を測定するときにどのようなバイアスが考えられるのかを考察した後に、2021年衆院選時に実施したインターネット調査データを用いて、サンプリングバイアス、省力回答者バイアス、社会的望ましさバイアスの補正を試みた。分析の結果、インターネット調査で計測した投票率は、社会的属性によるバイアスよりも社会的望ましさバイアスによって大きく歪められていることが分かった。3種類のバイアスを補正した場合でも測定誤差の4割が埋めきれておらず、非回答バイアスを含む未計測のバイアスの存在が示唆される。
著者
大森 翔子
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAワーキングペーパー (ISSN:27582183)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-29, 2021-11-12 (Released:2022-10-19)

21世紀に入り、社会調査においてはインターネット調査が普及し、一般的な調査法の一つとなった。しかし、インターネット調査には「バイアス」があり、目標母集団との乖離が問題となる。こうした実態を明らかにするため、本プロジェクトでは、同一の質問項目によって構成される、無作為抽出に基づく面接調査と性別・年齢層で回収目標数を割り付けたインターネット調査を同時に実施し、国勢調査との共通項目と合わせて比較した。分析の結果、インターネット調査の回答者には一定の省力回答者が含まれ、国勢調査と比べて大都市居住者が多く、学歴も高いという特徴のほか、面接調査回答者と比べて外向性・協調性が低く、神経症的傾向が高いというパーソナリティの特性が分かった。一方、面接調査にも、国勢調査よりも「持ち家率」が高いといったバイアスがあり、無作為抽出に基づく調査結果を「正解」とするインターネット調査の補正には注意が必要なことが示唆される。
著者
川本 茉莉
出版者
公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
雑誌
NIRAワーキングペーパー (ISSN:27582183)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-19, 2022-01-17 (Released:2022-10-19)

日本が直面する課題について解決策を探るためには、政策に関心を持つさまざまな人々の意見を集約し、それを踏まえた政策ビジョンを構築することが必要だ。本稿では、その第1段階である、後期高齢者医療制度に関する調査について報告する。今回の調査では、後期高齢者を対象とした医療費の窓口負担割合の引き上げに対する賛否に注目し、どのような人がどのような理由で賛成、もしくは反対するのかを探った。また、この議題に関する専門家の論考を読み、熟議や熟慮によって人々の考えがどのように変化するかを検証した。調査の結果、引き上げ賛成・反対派ともに、個人の負担能力に応じた負担をする「応能負担」が多く支持されていることが判明した。それに加えて、賛成派が現制度の問題点や現役世代の負担を懸念している一方で、反対派は低所得者の負担を心配していることが分かった。また熟慮による意見の変化では、もともと自分なりの意見を持っている人は、専門家の論考を読んでも、考えが変わりづらいが、そうでない人は、専門家の論考を読むことで、自分の考えを持つようになることが検証された。