- 著者
-
谷口 将紀
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究は、戦後日本における価値変容を時系列的に分析する。経済発展は、直接民主政の安定をもたらすものではなく、市民文化の発達を媒介変数として相互関係にある。また、経済安定は人々の価値観を変え、物質主義的な価値に重きを置かない社会は低経済成長時代を迎えるという意味で、市民社会の価値観と経済もまた、相互関係にある。価値観研究は、現在に至るまでNPCなど新しい概念も生みながら、各国で繰り返し大規模比較調査が行われている、国際的な関心の高い研究分野である。短期間で大きな経済発展を遂げ、また新聞購読率が伝統的に高く、社会調査開始前に遡及した研究が可能な日本は、研究対象・方法の両面でもっとも本テーマに貢献しうるポジションにある。上記の問題意識に立脚して、本年度は以下の各項目について研究を行った。1.従来のワーキングペーパーを大幅に改訂の上、「戦後日本の価値観変化1945〜2000年--新聞社説を手がかりに」(小林良彰・任ヒョク=ひへん(火)に赤赤=伯編『市民社会における政治過程の日韓比較』慶應義塾大学出版会、2006年所収)として公刊した。同論文については、韓国語訳もまもなく刊行される予定である。2.これとは別に、英語論文"A Time Machine : New Evidence of Postmaterialist Value Change"を作成の上、米国・ワシントンDCで開催されたアメリカ政治学会(American Political Science Association)において研究発表を行った。3.学会発表・討論を通じて得られた知見をもとに、上記英語論文を改訂の上、現在海外の某学術雑誌に投稿中である。研究期間終了後速やかな公刊を期したい。以上の作業を通じ、国際比較を拡大させる一方で、研究開始時点以前に遡及できないという制約上従来不可能とされてきた時系列比較を可能ならしめたことにより、内外の価値観研究に新しい資料を提供できたものと思料する。