著者
野村 亜紀子
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.46-75, 2022 (Released:2023-03-10)
参考文献数
31

少子高齢化が進む日本では,公的年金はマクロ経済スライドによる給付抑制を実行することが求められており,私的年金の役割が増すと共に,私的年金自体の持続可能性が重要を増す。私的年金の一種である確定拠出年金(DC)は2001 年の導入以降着実に普及しているが,改善すべき制度上の課題も抱えている。まず,DC 拠出限度額は,個人が働き方 や職場の年金制度等に関わらず均等に拠出機会を享受できる方向での,抜本的な見直しが求められる。租税理論及び財政の観点からは,私的年金税制の「EET 型」への移行も重要な論点となる。また,多くの個人がDC に加入し有効活用していることが重要であり,更なる普及拡大に向けて自動加入制度のような思い切った手段も検討の余地がある。さらに,DC 制度の運営の担い手は民間企業であり,事業として持続可能でなければならない点には留意が必要である。
著者
森 知晴
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.83-106, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
97

本論文では,課税と給付の経済分析において,行動経済学の知見を用いた研究のサーベイをおこない,日本の課税・給付政策を行動経済学の観点から議論する。行動経済学とは,主体が「標準的な仮定」とは異なる仮定で動いているモデルを想定した研究の総称であり,近年では課税・給付の理論分析・実証研究においても研究が急増している。具体的には,税に関する不注意,課税・給付の複雑性がもたらす影響,退職貯蓄と年金の制度設計,納税促進,労働・教育・医療における給付の影響などが研究されている。また,理論的には最適課税との関係が研究されている。行動経済学的な知見は日本における課税・給付にかかる制度・政策を検証する新たな視点を提供し,より現実的な人間像を踏まえた制度設計を提案することができる。
著者
小黒 一正
出版者
財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.6, pp.151-176, 2006-09

既に人口減少社会に突入しているが,高齢化率(全人口に対する65歳以上の高齢者の割合)は,引き続き上昇していくことが予測されている。このため,これまで老齢世代と現役世代の助け合いの精神の下で支えられてきた現行医療保険制度は,膨張する国民医療費の将来推計を前にして,その持続可能性に疑問が呈されているとともに,賦課方式である現行制度自体に内在している世代間格差の問題にも注目が高まっている。そこで,本稿では,各世代の保険料率や自己負担率等を安定化し,世代間格差の改善を図る観点から,既存研究である西村(1997)や鈴木(2000)等の「医療保険の積立方式化」の考え方を参考にしつつ,現行医療保険制度に,有限均衡方式タイプの世代間格差調整勘定を付加するモデル(=修正賦課方式)を構築しその実証分析を行うことで,その可能性を模索している。実証分析の結果,実際の制度設計においては高齢化率の予測など種々の留意点等があるものの,現行医療保険制度に世代間格差調整勘定を創設することによって,世代間格差が改善される可能性が高いことが示された。
著者
山形 辰史
出版者
財務省財務総合政策研究所
雑誌
フィナンシャル・レビュー (ISSN:09125892)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.1, pp.171-191, 2005-02

HIV/AIDS、SARS、鳥インフルエンザといった新興感染症、薬剤耐性を持った病原体の出現によって問題が深刻化している結核、マラリア等再興感染症への関心が世界で高まっている。感染症の予防や治療はそれを個人に施すことのプラスの効果が国境を超えてスピル・オーバーすることが多く、国際公共財としての性質を持っている。また、新薬・ワクチンの成分・製法に関する情報および、感染症の流行に関する情報は典型的な公共財であり、誰しもがフリー・ライドするインセンティブを持っている。したがって、これら公共財の過少供給の問題を解決するためには国際的な協調行動が必要である。 世界の感染症対策は、感染がより大規模に広まっている発展途上国を中心としたものにならざるを得ない。現在これをリードしているのはアメリカであり、日本はWHOへの出資については存在感を示しているものの、それ以外の機関への出資や二国間協力の面において、少なくとも今現在においては貢献度が大きいと見られていない。また、新薬・ワクチン開発については日本の財政的な面での貢献は全く目立たない。 国際的な感染症対策に関する日本の印象を高めるためには、沖縄感染症イニシアティブの際になされたような形で金銭的貢献度を再び高める、あるいは、国際的に必要と考えられているものの他国が協力を決めていない分野への貢献をいち早く宣言する、等の対応が考えられる。