著者
髙梨 泰彦
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:13483323)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.171-184, 2018-03

本研究の目的は,バレーボールにおけるスパイク跳躍高を増大させるための助走条件を明らかにすることである。助走の歩数,歩幅,跳躍時における腕の振込み動作の3要因について,それぞれ条件を変化させ,跳躍高を調べる実験を実施した。被験者はC大学に所属する大学男子バレーボール選手17名であった。本研究の結果以下のことが明らかになった。 ① 跳躍高を大きくするためには助走歩数は3歩が有効であり,歩数を少なくすると跳躍高は低下する。 ② 助走の歩幅は身長の100%程度の時に最も跳躍高が大きくなった。以下75%歩幅,50%歩幅であり,歩幅が小さくなると跳躍高が低下する傾向にあった。 ③ 腕の振込み動作によって跳躍高は増大することが明らかとなった。特にバックスイング動作が重要で,バックスイング動作を伴った腕振り動作のときに最も跳躍高が大きくなった。
著者
田中 将大 宇佐美 洵 入江 拓郎 川畑 隆司 門 良一
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:09165916)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.27-42, 2012-03

次世代燃料電池材料として有力視されている水素吸蔵マグネシウムにおいて,プロトンの核 磁気共鳴(NMR) の実験を室温と液体窒素温度で行った.高温高圧下で水素を吸蔵させたマグ ネシウムと,市販試薬の水素化マグネシウムの二つを試料とした.室温での測定結果はどちら の試料も結晶相と固溶相の二つの相を有することを示した.液体窒素温度では両試料ともに予 想に反して液体気体で見られるような大きなスピン・エコーが観測された.ドライ・アイスや 冷凍庫で冷やした試料においても同様の現象が見られた.これは低温化することによって試料 に不可逆的な構造変化が起こり,気体水素が発生したものと考えられる.この現象は,吸蔵量 は多くても水素の放出が困難であった水素吸蔵マグネシウムの,燃料電池としての有用性に新 たなブレークスルーをもたらすことが期待される.
著者
濱地 賢太郎
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:13483323)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.49-68, 2009-03

Diracによって与えられた,特異ラグランジアンから導かれるオイラー・ラグランジュ方程式に対応するハミルトン形式を構成する処方の問題点を幾つか挙げ,その解決策としてその構成法の改良を与えた.またここで与える手法によって,これまでオイラー・ラグランジュ方程式とハミルトン形式の同値性に関する問題を,明快な形で論じることができるようになり,特に,オイラー・ラグランジュ方程式の解を再現するハミルトン系の構成法を与えた.
著者
梶浦 大吾 酒井 啓太 原 哲也
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:13483323)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.230-247, 2005-03

スカラー場の非最小結合はBrans-Dicke(B-D)理論[1]として知られており,アインシュタインの一般相対性理論の拡張の一つとして,その理論的意味が論じられている.ここでは,スカラー場に加えてベクトル場も非最小結合をしている場合,どのような効果が期待できるかを調べた.簡潔なモデルの下でのベクトル場を導入し,ラグランジアン密度から計量,ベクトル,スカラーを変分して0にして各々方程式を導いた.ベクトル場を導入しても,等価原理は成立しており,粒子の測地線の式は変更されない事が分かった.また弱い近似でベクトル場の効果を調べたが,スカラー場とほぼ同じ形で効果が期待される.
著者
淡路 靖弘
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:13483323)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.35-49, 2020-03-31

本研究はACL 再建術で採用されるBTB 法(Bone- Tendon-Bone : BTB) とSTG 法(Semitendinosus/Gracilis : STG)の術後の経過及びパフォーマンス差異を検証したものである。多くのアスリートは競技中に膝関節の安定をもたらすのに重要な役割を果たす前十字靭帯を断裂させている。前十字靭帯の断裂によりアスリートは再び競技復帰するのに6 ~ 12 か月もの時間をかけリハビリテーションに励んでいる。より早くアスリートを競技復帰させるために医師は2 つの術法を選択する。一つは膝蓋????を用いるBTB 法で,もう一つは半????様筋????及び薄筋を用いたSTG 法である。筆者は2 つの術法を経過と共に観察し????痛レベル,筋力,下肢周囲径,下肢パフォーマンスに有意な差異を明らかにした。
著者
廣野 由里子 竹内 実
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 自然科学系列 (ISSN:09165916)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.63-93, 2010-03

タバコ喫煙は肺疾患や肺癌などの発症と深く関わっていることが知られている.タバコ煙の中には約6000種類以上の化学物質が含まれる.肺には,肺の免疫系において重要な役割を果たしている肺胞マクロファージ(Alveolar Macrophages:AM) が常在し,吸入されたタバコ煙がAMの機能に影響を与える可能性が考えられる.我々は以前より,喫煙によるAMの抗原提示能,食作用,サイトカイン産生などの免疫機能の抑制を報告してきたが,この抑制機構についてはいまだ解明されていない.この抑制の機序の一つとして,喫煙によるAMのDNA損傷とそれに引き続く細胞反応が関わっている可能性が考えられる.そこで今回,タバコ主流煙曝露によるAMのDNA損傷への影響,それに引き続くアポトーシスの誘導,細胞増殖およびDNA修復の可能性について検討した. タバコ喫煙は,C57BL/6マウスに1日20 本,10日間,タバコ主流煙を曝露し,AMは気管支肺胞洗浄により回収した.喫煙によりAM数の増加,AMの大型化と細胞内部構造の複雑化,AMの細胞質内への封入体の出現が認められ,喫煙によるAMの形態学的な変化が認められた.AMは食作用により異物を取り込み,活性酸素を産生し取り込んだ異物を殺菌,除去する.喫煙によりAMがタバコ煙粒子を取り込み,活性酸素種を産生することが考えられたため,喫煙によるAMの活性酸素種産生への影響を検討した.AMの活性酸素種(H₂O₂, O₂-)産生は,喫煙により増加した.活性酸素種はDNA損傷を誘導することから,喫煙によるAMのDNA損傷への影響を検討したところ,喫煙により,AMのDNA損傷が誘導されることが確認された.DNA損傷に続く細胞反応のひとつに,アポトーシスが知られていることから,喫煙により誘導されたDNA損傷が,アポトーシスを引き起こすか否かについて検討した.Fasレセプター(CD95) の発現は,喫煙により減少した.アポトーシスの初期の特徴であるミトコンドリア膜電位の低下が喫煙により認められた.一方,アポトーシスの実行役であるCaspase-3 mRNA発現およびCaspase-3/7活性は減少し,喫煙によってAMのアポトーシスが抑制されることが明らかになった.次にアポトーシス抑制因子であるXIAP, survivinのmRNA発現を検討したが,非喫煙群と喫煙群で差はなかった.また,細胞の生存に重要な役割を果たすAktのmRNA発現およびリン酸化は,喫煙により有意に減少した.喫煙によるアポトーシス抑制は,DNA損傷の修復もしくは細胞増殖が原因であることが考えられたため,AMのDNA合成について検討した.喫煙により3H-Thymidineの取り込みが増加し,喫煙がAMのDNA合成を促進することが確認された.このDNA合成が細胞増殖のためであるかどうかを検討したが,生存細胞数は非喫煙群と喫煙群で差はなかった.また,細胞周期に関しても,非喫煙群と喫煙群で差はなかった.さらに,喫煙群から回収したAMを24時間培養することにより,DNA損傷が修復されたことから,喫煙によるAMの3H-Thymidineの取り込みの増加は,細胞増殖ではなくDNA損傷の修復によることが示唆された. 以上の結果より,喫煙によるDNA損傷と修復の繰り返しや修復の間違いが,AMの免疫機能抑制に関わり,機能低下したAMがアポトーシスを起こさずDNA修復を通して肺内に留まり続けることが,喫煙による肺疾患や肺癌の発症と密接に関わっている可能性が示唆された.