著者
田中 綾乃 TANAKA Ayano
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = JINBUN RONSO : BULLETIN OF THE FACULTY OF HUMANITIES, LAW AND ECONOMICS (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.49-57, 2017-03-31

「アートの公共性」とはどのようなことを意味するのであろうか。一般的にアートとは、アーティストが自由に表現した個人的な産物であり、それが公共性を持ちうるかどうかは無縁である、と考えることができる。いわゆる「芸術のための芸術(Artforart・ssake)」という考え方は、現代の私たちには根強く支持されている。しかし、現在、私たちが考える「芸術」という概念そのものは、18世紀半ばのヨーロッパの思想において確立した概念である。そして、それとともに、アーティストと呼ばれる「芸術家」も登場することになる。もっとも、近代以前から古今東西、様々な芸術作品が存在し、その作品の作者がいることは自明のことであるように思える。だが、もしかしたら、そのような見方は、近代ヨーロッパで確立された芸術観を私たちが過去に投げ入れているのかもしれない。芸術の自律性を説く「芸術のための芸術」とは、芸術が宗教のため、あるいは一部の貴族や権力のためだけにあるのではなく、まさに芸術の自己目的を主張するものである。そして、そのことによって、アートは誰にでも等しく開かれた存在となるのである。本稿では、この近代的な芸術観によってこそ、アートは公共性を持ちうることになるという点をヨーロッパの近代思想、特に18世紀のドイツの哲学者イマヌエル・カントの美学理論を概観しながら論じていく。また、「アートの公共性」について具体的に考えるために、20世紀後半に登場した「アートマネージメント」という概念に着目する。本稿では、現在、様々な芸術作品や表現方法がある中で、「アートマネージメント」の必要性を考え、さらにはこの「アートマネージメント」という概念がアートと社会とを媒介する機能を果たすことを論証しながら、「アートの公共性」について一考察を行うものである。
著者
早野 香代 HAYANO Kayo
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = JINBUN RONSO : BULLETIN OF THE FACULTY OF HUMANITIES, LAW AND ECONOMICS (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.35, pp.27-41, 2018-03-31

三重大学の教育目標である「4つの力」のうちの「コミュニケーション力」の育成のため、2017年前期「日本語コミュニケーションA」の授業で、知識構成型ジグソー法を試みた。本稿ではそのジグソー法の実践を紹介し、履修者の振り返りから協働学習の効果と問題点を考察する。このジグソー法は、「日本語コミュニケーション」という大きな課題を6つの専門のテーマから多角的に学ぶ日本人学生と留学生の協働学習である。実施後の学生の振り返りから、「おもしろい・楽しい」という感想とともに、「多様性・異文化理解」、「新しい知識の習得」、「コミュニケーション能力」、「効率性」、「深い学習」などにプラスの評価が得られ、多様な他者との協力的な活動ができた喜びやおもしろさの発見があったとのコメントが得られた。そして、この意識の変容から、自らの学びの質や効率をも見直し、今回のジグソー法の問題点の改善策を提案する学生も現れた。これは、学生主体の「協調」路線の協働学習になったと同時に、E.アロンソンの志向を継承する協力的なものへ変えてゆくジグソー法にもなったと評価できる。このジグソー法は、今後も留学生と日本人学生が共存する大学の様々な分野で生かされるべきであり、それを生かす学習法を異なる分野間で共有し、大学全体における「コミュニケーション能力」の向上、引いては「生きる力」の養成に繋げるべきであろう。留学生と日本人学生との日本語力の差というものは、多様性を受容する観点においては利点となるが、全ての学生が深い理解を得るという到達目標においては課題が残る。言語能力の差がある中での有効な協働学習の方法や方略の研究は今後の課題となる。
著者
相澤 康隆 AIZAWA Yasutaka
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = JINBUN RONSO : BULLETIN OF THE FACULTY OF HUMANITIES, LAW AND ECONOMICS (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.34, pp.1-10, 2017-03-31

マイケル・スロートは、行為の道徳的地位(正しい、義務である、善い、賞賛に値するなど)を、行為者の動機や性格特性といった内面的性質に対する評価だけから導き出す理論を構築している。本稿では、スロートの理論に対するさまざまな批判を検討したうえで、「正しい行為」や「義務的行為」といった種類の道徳的地位を行為者の動機に対する評価から導き出すことは困難である一方で、「善い行為」や「賞賛に値する行為」といった種類の道徳的地位に関してはスロートの理論は基本的に正しいものであることを論ずる。
著者
川口 敦子 KAWAGUCHI Atsuko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = JINBUN RONSO : BULLETIN OF THE FACULTY OF HUMANITIES, LAW AND ECONOMICS (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.79-87, 2018-03-31

本稿は、拙稿「旧トレド管区イエズス会文書館および旧パストラーナ文書館の日本関係文書のカタログ番号について」(『人文論叢:三重大学人文学部文化学科研究紀要』34、2017年3月)の内容を補うものである。松田毅一『在南欧日本関係文書採訪録』(養徳社、1964)のカタログに記載されている日本関係資料について、前回の現地調査時に確認できなかった資料のうち、2017年9月の現地調査によって確認できた資料の新番号と追加情報を報告する。