著者
高野 敏樹
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review
巻号頁・発行日
no.5, pp.21-34, 2003-03-25

憲法25条は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」としての生存権を保障しており,この規定が福祉国家としてのわが国の法的基礎をなしている。しかし,この生存権の法的性質をどのようにとらえるかという問題については,これまでも争いのあるところであり,とりわけ最高裁の一連の判決においては事実上,生存権の権利性は希薄化しているといってよい。生存権の司法的実現という視点からは,いずれの学説および判例上も,問題は立法・行政裁量の効果的な統制と,適切な司法審査基準の構築と適用にかかっていることを指摘した。
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review
巻号頁・発行日
vol.6, pp.121-133, 2004-03-25
著者
馬場 純子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
no.1, pp.97-116, 1998-12-25

痴呆性老人の在宅介護方法開発研究の一環としてK県内のケアセンターを利用する痴呆性老人とその介護家族を対象とした継続評価観察調査において主介護家族の負担感を測定し,その変化や影響する要因について検討した。2ヶ月に一度ずつ計4回,質問紙調査票を用いて各ケアセンターの指導員・看護婦などの専門職による個別訪問面接調査を行った。有効回答票はは28ケースである。負担感の測定には,Zaritらの負担感スケールを使用し,主介護者の負担感の変化について,何が効果的に影響したのかを探るため,要因と考えられる痴呆性老人の病状や行動評価,問題行動,サービス利用状況及びその他の支援との関連を検討した。その結果,ケースマネジメントによるサービスの調整や相談・助言などの支援を受けて8ヶ月後に負担感が変化したものは24ケース,そのうち負担感が増大したものが15ケース,軽減されたものが9ケースであった。負担感の変化と相関が認められたのは,老人への介護の対応状況とデイサービスの利用回数の変化であった。全体的な傾向は,ADLやACTIVITYなどの行動評価に顕著な改善が見られても,対応困難な問題行動が改善されない場合には負担感は増大する,また専門職による精神的支えや適切な助言及び諸サービスの調整などの援助が積極的に行われているケースにおいては,痴呆の程度が進んでも負担感が増大するわけではないなどの傾向が示された。
著者
馬場 純子
出版者
田園調布学園大学
雑誌
人間福祉研究 = The human welfare review (ISSN:13477773)
巻号頁・発行日
no.3, pp.59-78, 2000-12-30

近年,わが国においては「ケア」と「介護」を同義語とすることをはじめ,「ケア」という言葉が氾濫しているといっても過言ではない状況にある。公的介護保険制度の開始,社会福祉基礎構造改革や社会福祉法の制定など,わが国の社会福祉をめぐる状況が大きく変化している現在,本研究はそれを自明のこととするのではなく改めて「ケア」の概念,意味するところを問い直そうと問題提起するものである。その第一歩として,人が「ケア」或いは「ケアする行為」をするのはなぜか,その動機や理由,人を「ケア」「ケアする行為」に導くもの,その基盤について,特にインフォーマル・ケアを中心に主に社会学的側面からの検討を行った。その結果,個人には人との関係を通してのみ満たされることのできるwell-beingに必要なものがあり,異なる関係においては異なる機能がもたらされるということが判明した。そして同じケアでもその担い手との関係によりもたらされるものが異なるという知見は,今後の地域福祉型社会福祉における社会的分業に貴重な示唆を与えるものであるが,人を「ケア」或いは「ケアする行為に」導くものの説明に十分な説得力あるものとはならなかった。今後は併せて哲学的,倫理的な側面からの検討を行う。