- 著者
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天尾 久夫
- 出版者
- 作新学院大学
- 雑誌
- 作大論集 = Sakushin Gakuin University Bulletin (ISSN:21857415)
- 巻号頁・発行日
- no.7, pp.163-194, 2017-03-15
[要約] 信金中央金庫(Shinkin Central Bank)は昭和21年(1946年)6月1日に設立され、平成28年(2016 年)3月末で、国内14店舗、23分室、海外5拠点を構えている。 この金融機関の特徴を一言で述べれば、日本の金融史の大きな事件を、金融当局の指導のもと上手く対応し尽くした金融機関と言える。この機関は、現在の全国265の信用金庫の信用ほう助や日本銀行の一歩手前の全国信用金庫の最後の貸手の存在として位置づけられる。信金中央金庫の社史を見ると、為替の取引の自由化、プラザ合意、金融ビッグバン、バブル経済の進捗、崩壊、金融機関の倒産、2000年になり日本の中小企業の海外展開の進捗、高齢化社会の進捗と企業の継承問題、地域創生に併せて経営業務が展開されてきた。 信用金庫がなぜ為替取引の業務も担当しなければならないのか、どうして投資信託から保険まで窓口販売手数料を稼ぐ必要があるのか、筆者はこの銀行がどういう顧客に対してどのようなポジションを志向しているのか、目指す業態は都市銀行ではないのかという錯覚を抱く。 この金融機関は、「信用金庫法」に基づいて業務を行っている。この法律の元々の狙いは会員(中小企業)向けの資金決済や与信のための金融で国民経済に貢献することであった。なぜ、上記のように変遷したのかという金融史の視点も存在する。しかし、本稿ではその議論を省くことにした。 この機関は平成28年3月で総資産(平残)は34兆6440億円で、会員(主として信用金庫)からの出資金は6909億円、連結自己資本比率(国内基準)は41.1%を記録している。そして、出資会員に占められているのは、全国265行の信用金庫である。 信金中央金庫は会員信用金庫のセントラル・バンクとしての位置づけとなっており、国内で都市銀行(メガバンク)・地方銀行という範疇からみて、規模の小さな信用金庫の信用保証を果たすという経営目標を掲げている。 しかし、銀行には日本銀行という中央銀行の存在があるにも係わらず、戦後の混乱期を終えても、なぜ、信用金庫にセントラルバンクの機能が必要なのか、そのことが大きな疑問として残る。会員へのサービスのように振る舞っているが、この機関はなぜ信用金庫の代理貸出を為し、その意味で各信用金庫が都市銀行(メガバンク)の支店のように展開しているようにも見える。 本稿では、信金中央金庫の財務データーからこの機関の行動を分析する。本稿では貸出に関しての関数を推計することにした。これは現在の金融当局の貨幣拡張政策による金利低下が、この種の機関にどのように作用しているかを見たいと考えたからである。これが本稿の副次的目的である。 この信金中央金庫を考える際に、信用金庫の現行の業態の特徴を検証することが必要となる。本稿では、まず信用金庫の現況について検証することから始めている。信用金庫は、政府が実体経済を刺激するとき、中小企業向け貸出時に信用保証協会などを通じ積極的に与信を与えている。 信金中央金庫も、最近では、東日本大震災の復興預金を集め、そこから復興資金を提供したり、あるいは、人口減少する過疎地域で「地域創生」の名の下、資金提供を行っている。全国のそれぞれの信用金庫が地域住民や中小企業の預貸業務を行うことが主目的であるとすれば、これは完全に業務目的が重なる分野である。信金中央金庫と各信用金庫がどのように重複する貸出について棲み分けを行っているのか、それも本稿で明確にしたい疑問の一つである。 上記のような見解に同意できない研究者もいるかもしれない。例えば、農林中央金庫と地方のJAの与信部門では、預貸への分野の重複を避け、上部機関の農林中央金庫が採算性の乏しいJA本体の利益を保つために、投資銀行として、地域JAから集めた資金を信託して利益を得ている事実がある。そうした業態と同じ形状を採っているのではないかという疑念が本稿作成の動機の一つである。 さて、本稿の結論だけを述べれば、日本で、すべての信用金庫の預金は右肩上がりで増えていることが確認できるが、貸出については思うように伸びていないことが確認できる。信用金庫のその余剰資金は有価証券では国債、社債で運用されている。そして信金中央金庫は信用金庫のかなりの資金を信金中央金庫の預入金として資金運用を行っている。ところが、信金中央金庫は、その資金運用の国内業務での収益率(利鞘)が、0.1%を下回る事態になっており、投資銀行の体を為していない状況にある1)。 信金中央金庫の貸出行動についても政府への依存度の高い姿が見える。すなわち、この機関は預金を大量に集めて、乏しい資金運用力でも十分機関本体に維持可能な金融収益を稼得している。しかし、貸出も政府・地方自治体への関係が深く、他業種への貸出能力に長けていない。そして、昨今、信託部門を都市銀行系列の信託銀行に売却した。この金融機関は、いよいよ生き残りを与信業務に掛けなければならない時期に来た。本稿はこのことを明示した論文と言える。1) 2016年10月31日の日経新聞で信金中央金庫の傘下の信託銀行を三菱UFJ信託銀が買収と記載されたとき、本稿を書き終えるところであった。