著者
古沢 希代子
出版者
大阪市立大学経済学会
雑誌
大阪市立大学経済学会經濟學雜誌 = Journal of economics (ISSN:04516281)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.19-44, 2021-03

21世紀に独立を遂げた東ティモールでは, 1975年にポルトガル植民地からの独立の過程で隣国インドネシアの軍事侵攻を受け占領統治されたため, 1999年の民族解放によって, インドネシア占領統治由来の土地問題とポルトガル植民地支配由来の土地問題が一挙に噴出した。本稿は, 東ティモールにおける土地紛争の類型と原因を分析し, 独立後15年を経て成立した2017年の土地基本法「不動産所有権の決定に関する特別方式」を東ティモール版土地改革と捉え, 歴史の不公正を正し, 国民和解を進め, 土地へのアクセスを保障する土地改革の精神がどのように実現されているのか探った。結論として, 同法は, 人々の慣習的権利やコモンズを尊重し, 過去の権利剥奪を国家補償の対象とする一方, 外国支配期の権利証書を有効とし, 広大な土地の使用権保有者を利した。土地権を得るために彼らに補償金を支払わねばならない貧しい現占有者の負担をどの程度軽減できるかが今後の課題である。
著者
杉田 菜穂
出版者
大阪市立大学経済学会
雑誌
大阪市立大学経済学会經濟學雜誌 = Journal of economics (ISSN:04516281)
巻号頁・発行日
vol.116, no.4, pp.81-110, 2016-03

1 はじめに : 日本では, 1990年の1.57ショックを機に少子化が行政課題になった。以来講じられてきた少子化対策の背後にあるのは出生率の回復が望ましいという考えであるが, 政府の人口に対する問題意識が人口状況に応じて変化し今日に至っていることはいうまでもない。戦後日本の合計特殊出生率(以下, 出生率)の推移をみれば, 戦後間もない時期の出生率は4を超える水準にあった。1950年代を通じて急激な出生率の低下を経験し, それ以降は2000年代半ばにかけてゆるやかな低下傾向を示してきた(図表1, 参照)。出生率が継続的に人口置換水準を下回るに至った1970年代には, 日本の人口論議をリードしてきた人口問題審議会の問題意識にも転換がみられた。1974年の黒田俊夫(当時, 厚生省人口問題研究所所長)は, 日本人口の変動をめぐって1974年を境にそれまでを第一期, それ以降を第二期としてそれぞれを以下のように特徴づけた。……
著者
河原林 直人
出版者
大阪市立大学経済学会
雑誌
大阪市立大学経済学会經濟學雜誌 = Journal of economics (ISSN:04516281)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.79-93, 2020-03

はじめに : 筆者は,これまで,日本植民地期台湾の「工業化」を巡る議論,中でも工業化「構想」について幾つか考察を重ねてきた。これらの研究と先行諸研究との最大の違いは,実際の「工業化」の様態を分析対象とするのみならず,台湾總督府(以下,総督府と略す)が抱いた「構想」を俎上に載せて,通説的に理解されてきた当時の台湾「工業化」について,異なる理解を導き出し得る可能性を見出したことにある。……