著者
古沢 希代子
出版者
大阪市立大学経済学会
雑誌
大阪市立大学経済学会經濟學雜誌 = Journal of economics (ISSN:04516281)
巻号頁・発行日
vol.121, no.2, pp.19-44, 2021-03

21世紀に独立を遂げた東ティモールでは, 1975年にポルトガル植民地からの独立の過程で隣国インドネシアの軍事侵攻を受け占領統治されたため, 1999年の民族解放によって, インドネシア占領統治由来の土地問題とポルトガル植民地支配由来の土地問題が一挙に噴出した。本稿は, 東ティモールにおける土地紛争の類型と原因を分析し, 独立後15年を経て成立した2017年の土地基本法「不動産所有権の決定に関する特別方式」を東ティモール版土地改革と捉え, 歴史の不公正を正し, 国民和解を進め, 土地へのアクセスを保障する土地改革の精神がどのように実現されているのか探った。結論として, 同法は, 人々の慣習的権利やコモンズを尊重し, 過去の権利剥奪を国家補償の対象とする一方, 外国支配期の権利証書を有効とし, 広大な土地の使用権保有者を利した。土地権を得るために彼らに補償金を支払わねばならない貧しい現占有者の負担をどの程度軽減できるかが今後の課題である。
著者
藤目 ゆき 大越 愛子 南田 みどり 古沢 希代子 今岡 良子 津田 守 深尾 葉子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

四カ年を通して、北はモンゴルから南は東ティモールにいたる北東及び東南アジアの全域を射程として、現代女性史に関する調査・研究を実施した。日本国内はもとよりモンゴル、中国(大陸)、台湾、韓国、ベトナム、カンボジア、タイ、ビルマ、フィリピン、インドネシア、東ティモールにおいてフィールドワークを行い、資料を収集した。軍事主義が女性に与えて影響を明らかにするための研究計画に基づいて、戦争・軍事政権・外国軍隊の駐留のインパクトを調査した。第一に朝鮮戦争・ベトナム戦争、またベトナムとカンボジアの紛争、カンボジア内戦・フィリピン内戦といった戦争下における女性の経験、第二にタイ・ビルマ・インドネシア・台湾などの軍事政権が女性に与えた影響、第三に駐韓米軍・在日米軍・米比一時駐留協定・モンゴルにおけるPKO訓練基地をめぐる地域女性史に焦点をあてた。これらの調査を通して、戦争・軍事政権・外国軍隊の駐留といった状況が女性に対する性暴力を構造化させ、人身売買・性的搾取構造を確立させていった過程を明らかにした。また、このような軍事主義的・暴力的構造に対してアジアの女性たちがんなる受動的な被害者であったのではなく、果敢に抵抗し、人権と平和が尊重される秩序を構築するために力を発揮したことをも明らかにした。このような研究成果を発表するために研究代表者・研究分担者はそれぞれに機会あるごとに学会における発表、学術誌への投稿、図書の刊行などに取り組み、また研究組織として『アジア現代女性史』全十巻の刊行に取り組むとともに、年報『アジア現代女性史』を日本語版・英語版で創刊し、それぞれ四号まで発行した。