著者
辻本 慶樹
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 = Annual reports of the Graduate School of Nara University (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.23, pp.39-49, 2018

近代化が行われ始めた明治時代以降、妖怪や怪異といった前近代的なものは悉く排除されていった。しかし、民衆の間では心霊ブームや怪異ブームといった、明治政府が排除しようと試みた、いわゆるオカルト的なものが広く流行した時期も存在しており、政府自体も徹底して妖怪・怪異を排除したとは言い切れない部分がある。それは戦時下という限定的な状況において「奇跡」「瑞祥」という形で現れており、政府はそれを容認している。本論考では日露戦争期における「奇跡」「瑞祥」について、当時の新聞記事と博文館の『日露戦争実記』を中心に論じ、「奇跡」「瑞祥」という妖怪・怪異がどのように表現されていたかを取り上げ、それらがどのようなものであったかを考察するとともに、妖怪・怪異という存在を考察する。
著者
渡邊 ゆきの
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 = Annual reports of the Graduate School of Nara University (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.22, pp.1-18, 2017

" 慶応4/明治元(1868)年~2(1869)年に発生した戊辰戦争戦没者の墓は、亡くなった土地や出身地など全国に点在している。墓石は文字だけでなく形状や石材等、被葬者・建立者の様々な情報を内包しており、後世に伝えるべき重要な文化財である。戊辰戦争から150年近くが経過した今、墓石の劣化が深刻化しており、いち早く保存対策を講じる必要がある。 本稿では同時期に全国各地の異なる環境下で建立された戊辰戦争戦没者の墓石の劣化状態を調査・比較し、石造文化財の劣化傾向を明らかにすることを試みた。また、墓石の劣化状態をA~Dの4段階で評価し、墓石の劣化危険度を視覚化した。 調査の結果、石造文化財の劣化の進行には、用いられている岩石の種類と凍結破壊注意日の出現回数が影響することを確認した。"
著者
ドルジプレフ オトゴン
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 = Annual reports of the Graduate School of Nara University (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.20, pp.47-71, 2015

"本稿は、筆者の母国であるモンゴルにおける出土金属製遺物の科学的保存処理方法、保存研究の基礎となることを目指し、モンゴル出土の金属製遺物を対象とした保存処理方法の研究である。 出土遺物に対して、適切な保存処理を決めるために当遺物が埋蔵されていた土壌性質などの環境情報が重要である。その為、モンゴルの自然、気候や地理などの概要、さらに本研究対象遺物の出土した遺跡周辺の気候、土壌性質について検討した。 日本の金属製遺物の保存に用いられている保存方法にしたがってモンゴル出土遺物の保存処理研究を行った。研究結果、今回の脱塩処理に利用した水酸化リチウム水溶液はモンゴル出土の遺物にとって副作用がないことがわかった。そして、腐食の原因となる塩酸化イオン濃度が日本の例と比べて低かったことなどから、モンゴル草原地帯は乾燥気候でもあり、土壌性質も塩分濃度が低いため埋蔵文化財にとって比較的良い条件であると考える。"
著者
村上 智見
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 = Annual reports of the Graduate School of Nara University (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.21, pp.43-54, 2016

中央アジアのウズベキスタン共和国フェルガナ地方に位置する4~7世紀のムンチャク・テパ遺跡では、複数の墓から衣服が出土した。ムンチャク・テパ遺跡から出土したこれらの衣服は、有機質が残存しにくい当該地域において希少な実物資料となっている衣服を構成する織物の種類は、平織物、平地綾文綾、緯錦であり、材質は一部に付着している棉の平織物を除いて、全て絹であった。織物の種類や糸の撚りなどの技法、繊維材質、そして文様などから、中国製や現地製と考えられる織物の特徴が確認できた。